2026.09.25 (金)
経営者のSNSは税務調査で見られる?投稿内容と申告内容の「ズレ」に注意
Instagram、X、Facebook、TikTok、YouTubeなど、SNSを事業に活用する経営者は珍しくなくなりました。
「新しい店舗をオープンしました」
「今月は過去最高の売上でした」
「予約がいっぱいです」
「新しい車を購入しました」
「社員旅行で海外へ行ってきました」
こうした投稿は、会社の宣伝や採用、経営者自身のブランディングにとって有効です。一方で、税務という視点から考えると、SNSへの投稿は、会社の営業状況や経営者の活動を外部に公開しているという側面もあります。
そこで気になるのが、
「税務署は会社や社長のSNSまで見ているのか?」
という点ではないでしょうか。
結論からいえば、「SNSをやっているから税務調査に入る」ということではありません。ただし、国税庁が公表している税務調査事例を見ると、SNS上の情報が、事業の実態を把握するための材料の一つとして利用されることは実際にあります。
国税庁が「SNSを確認した事例」を公表
令和6事務年度の法人税等の調査事績で、国税庁は無申告法人に対する具体的な調査事例を紹介しています。
その法人に対して税務署が事業の稼働状況について照会したものの、法人側は再三の照会に回答しませんでした。そこで税務署は、さまざまな方法で情報収集・分析を行っています。
具体的には、
- 実際に店舗を確認し、多数の客の出入りを確認
- SNSが頻繁に更新されていることから、事業が稼働している実態を把握
- 銀行調査によって多額の入出金を把握
といった情報を積み重ね、実地調査へ移行しています。
最終的には、多額の利益を意図的に隠していたことが判明し、法人税・消費税合わせて約6,000万円が追徴されています。
重要なのは、「SNSだけを見て税務調査を決定した」という事例ではないということです。店舗の状況、銀行取引、税務署が保有する資料などとともに、SNSも事業実態を確認する材料の一つとして使われています。
国税庁は、法人税調査について、AIも活用しながら、収集した資料情報や申告書を分析して「調査必要度の高い法人」を抽出していることも公表しています。
つまり今後の税務調査では、申告書や決算書だけを見るのではなく、さまざまな情報を組み合わせて会社の実態を捉えるという視点がますます重要になると考えられます。
注意したいのは「SNSと申告内容のズレ」
では、経営者はどのような投稿に注意すればよいのでしょうか。
まず考えられるのが、SNSから受ける印象と税務申告の内容に大きな差があるケースです。
例えばSNSには、
「連日満席です」
「予約が取れないほど忙しいです」
「過去最高売上を達成しました」
と投稿している一方で、申告書上の売上は前年より大幅に減少していたとします。
もちろん、これだけで申告漏れがあるということにはなりません。SNSは広告目的で多少強調した表現をすることもありますし、「満席」であっても単価が低下していれば売上が減少することはあります。
しかし、税務調査になった場合には、「SNSでは非常に繁盛しているようですが、なぜ売上が減少しているのでしょうか」という疑問を持たれる可能性はあります。
大切なのは、その差について合理的に説明できることです。
新店舗や新事業の投稿にも注意
「2店舗目をオープンしました」
「新しいサービスを始めました」
「ネットショップを開設しました」
こうした投稿も、事業活動を外部から確認できる情報になります。
通常は、新しい事業を始めれば、売上だけでなく、設備投資、広告費、仕入れ、人件費など何らかのお金の動きが発生します。
ところが、SNSでは盛んに宣伝しているにもかかわらず、帳簿上にはその事業に関する売上や経費がほとんど出てこないとなれば、確認すべき事項が生じます。
特に、本業とは別に始めたネット販売、副業、オンラインサービスなどについて、経営者本人が「会社の売上ではない」と思い込み、税理士にも伝えていなかったというケースには注意が必要です。
高級車や旅行の投稿=問題ではない
経営者のSNSでは、高級車、腕時計、海外旅行、ゴルフなどの投稿もあります。
ここで誤解してはいけないのは、
「高級車に乗っているから税務署に疑われる」
「海外旅行の写真を載せたら税務調査に入られる」
という単純な話ではないことです。
問題になるのは、やはり税務申告との整合性です。
例えば会社が費用を負担した海外旅行について、会社では「出張旅費」として処理している一方、SNSを見ると家族だけで観光している様子しか確認できない場合などです。
もちろん、SNSの写真だけで事業目的の有無が決まるわけではありません。取引先との面談があった、現地視察を行ったなど、実際に業務上の目的があれば、その事実を説明できる資料を残しておくことが重要です。

「会社のお金」と「社長個人のお金」は明確に
特に中小企業で注意したいのが、会社と経営者個人との区分です。
国税庁は、法人が役員の個人的な費用を負担した場合、その負担額が役員に対する「経済的利益」、つまり給与と同様に扱われる場合があることを明示しています。
例えば、
「この車は会社で買った」
「会社のお金で旅行に行った」
ということ自体が直ちに問題になるわけではありません。
会社の事業に必要な車であれば会社が購入するのは当然ですし、業務上必要な出張であれば会社が旅費を負担することにも問題はありません。
重要なのは、「なぜ会社が支払う必要があったのか」を説明できるかということです。
会社の支出と社長のプライベートな支出が混在している会社ほど、税務調査では確認事項が多くなりやすいため、普段の経理から明確に分けておく必要があります。
SNS自体から収入が発生している場合にも注意
もう一つ忘れてはいけないのが、SNSそのものから収入が発生しているケースです。
例えば、YouTubeの広告収入、アフィリエイト収入、企業から依頼されたPR案件、ライブ配信の収益、SNS経由の商品販売などです。
国税庁は、インターネットを利用した新しい経済活動について、資料情報の収集・分析を行い、積極的に調査を実施していると公表しています。対象にはネット広告、デジタルコンテンツ、ネット通販なども含まれています。
また、ライブ配信によって多額の利益を得ていたにもかかわらず、所得税を申告していなかった事例も国税庁から公表されています。
特に注意したいのが、その収入が会社のものなのか、経営者個人のものなのかという点です。
会社の商品を会社のスタッフが制作した動画で宣伝しているのに、広告収入だけ社長個人の口座に入っている、といったケースでは、収入の帰属について検討が必要になることがあります。
「SNSを消す」は税務調査対策ではない
ここまで読むと、
「余計なことをSNSに投稿しない方がいいのでは」
「過去の投稿を削除した方がいいのでは」
と思われるかもしれません。
しかし、それは本質的な税務調査対策ではありません。
重要なのは、SNSと帳簿を無理に一致させることではなく、帳簿と申告内容を実際の事業の姿に正しく一致させることです。
SNSはあくまで事業活動の一部分です。
正しく売上を計上し、会社と個人のお金を区分し、経費について事業との関係を説明できるのであれば、SNSを必要以上に恐れる必要はありません。
まとめ|SNS時代こそ「見られても説明できる経理」を
税務調査への備えとして、経営者の方には次の点を確認していただきたいと思います。
- SNSで紹介した新事業や売上が正しく帳簿に反映されているか
- 会社と経営者個人のお金が混在していないか
- 車、旅行、飲食などの経費について事業上の目的を説明できるか
- YouTubeやSNSの広告収入、企業案件などを漏れなく申告しているか
- 税理士に伝えていない副業、新事業、ネット販売などがないか
国税庁は現在、申告内容やさまざまな資料情報の分析に加え、AI・データ分析も活用して税務調査の効率化・高度化を進めています。令和6事務年度の法人税調査では、AIによる予測モデルと申告書・資料情報を組み合わせ、最終的に調査官が調査の要否を判断する仕組みも公表されています。
これからの税務調査で大切なのは、「税務署に見つからないようにする」という発想ではなく、「どの情報を見られても、会社の取引についてきちんと説明できる状態にしておく」ことです。
SNSを積極的に活用する時代だからこそ、日頃から正確な経理と申告を行い、事業の実態を説明できる資料を残しておくことが、最も有効な税務調査対策といえるでしょう。
参考:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」「国税庁レポート2025」「役員等に対する経済的利益」等

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