2026.10.16 (金)

インボイス・AI時代の税務調査―「会計ソフトで申告したから安心」と思っていませんか?秋の税務調査相談で見えてくる、自己申告の落とし穴 

当事務所では、秋になると税務調査に関するお問い合わせが増えます。その中には、マネーフォワードやfreeeなどの会計ソフトを利用し、ご自身で帳簿や申告書を作成している個人事業主の方からのご相談も一定数あります。

 

「銀行口座やクレジットカードを連携しているので、取引はすべて入力されています」「ソフトの案内に沿って申告したので、大きな間違いはないと思います」。ご相談の際には、こうしたお話を伺います。

 

しかし、税務調査に備えて帳簿と資料を確認すると、カード明細はあるものの購入先の領収書が保存されていない、データ連携を始める前の売上が入力されていない、といった問題が見つかることがあります。

 

これらは、調査官の指摘を受けて初めて分かるとは限りません。当事務所が行う調査前のチェックでも発覚するケースがあります。

 

会計ソフトは、経理や申告を効率化する便利な道具です。ただし、「システムが処理してくれること」と「申告内容が正しいこと」は別です。 今回は、インボイス制度と税務行政のAI活用を踏まえ、ご自身で申告している方が確認しておきたい点を解説します。

   

カード明細だけで、仕入税額控除を受けていませんか?

まず注意したいのが、クレジットカードで支払った経費の資料です。

 

カードを会計ソフトに連携すると、利用日、利用先、金額などが取り込まれます。その明細を基に経費を登録し、カード明細だけを保存・添付して、購入先の領収書や請求書を残していないケースがあります。

 

カード明細から支払先と金額が分かるため、「これが領収書の代わりになる」と考えてしまうのかもしれません。しかし、消費税では注意が必要です。

 

消費税を原則課税で計算する場合、仕入税額控除を受けるためには、原則として、必要事項を記載した帳簿と、インボイスなどの請求書等を保存しなければなりません。カード会社が発行する利用明細は、購入先が発行する書類ではなく、通常はインボイスの記載事項も満たしていません。そのため、カード明細だけでは、原則として仕入税額控除の保存要件を満たしません。

 

例えば、業務用の備品をカードで購入した場合、カード明細の取込だけで処理を終えず、販売店が発行するインボイスに該当する領収書や請求書も保存する必要があります。ネット購入であれば、購入サイトから必要な書類を取得しておきましょう。

 

ただし、少額特例や公共交通機関に関する特例など、一定の条件で帳簿のみの保存が認められる取引もあります。また、簡易課税や2割特例などでは消費税の計算方法が異なります。すべての方について「領収書がなければ必ず控除できない」と判断するのではなく、適用している計算方法と取引内容を確認することが必要です。

 

ここで大切なのは、会計ソフトへの「添付」と、税法上の「保存」を区別することです。ソフトに添付されていなくても、必要な書類が別途適切に保存されていれば、添付がないことだけで控除できなくなるわけではありません。反対に、カード明細を添付していても、必要な請求書等が保存されていなければ問題が残ります。

 

所得税の必要経費としての判断と、消費税の仕入税額控除の判断も別です。「経費として登録できたから、消費税も正しく計算されている」とは考えないようにしましょう。

 

年の途中からのデータ連携で、売上が抜けていませんか?

もう一つ、調査前の確認で見つかるのが、データ連携の対象期間に関する問題です。

 

例えば、7月から銀行口座を連携し、取り込まれた明細を順番に登録して申告書を作成したとします。このとき、1月から6月までの取引が取り込まれていなければ、その期間は通帳などを基に別途入力・補完する必要があります。

 

過去の明細をどこまで取得できるかは、連携先や設定などによって異なります。連携したという事実だけで、申告対象の1年分がすべて取り込まれているとは限りません。

 

当事務所でも、連携開始前の期間を確認したところ、売上の計上漏れが見つかるケースがあります。取り込まれたデータを処理することに意識が向き、そもそも取り込まれていない取引の存在に気づかないのです。

 

また、銀行口座への入金と売上は、必ずしも同じ時期・同じ金額にはなりません。年末に商品を引き渡し、代金が翌年に入金される取引では、入金データだけを見ていると、当年に計上すべき売上が漏れることがあります。適用している制度に応じた売上の計上時期を確認する必要があります。

 

現金で受け取った売上、連携していない口座への入金、キャッシュレス決済の取引も確認対象です。決済手数料が差し引かれて入金される場合、振込額だけを売上として登録すると、売上と手数料の処理が適切に行われないことがあります。

 

帳簿の売上が網羅されているかは、請求書、売上台帳、レジ資料、決済サービスの明細などと照合して確かめることが大切です。 銀行連携は入力の手間を減らしますが、売上の全体を自動的に保証する仕組みではありません。

 

AI時代の税務調査でも、備えの基本は変わらない

税務署側でも、データの活用が進んでいます。

 

国税庁は、AIによる予測モデルの分析結果と、独自に収集した資料情報を職員が検討し、申告漏れの可能性が高い納税者を効率的に抽出する取組を公表しています。AIは、調査対象の選定を支える手段として活用されています。

 

ただし、これは「AIがすべての取引を把握している」「AIだけで不正や税額が確定する」という意味ではありません。公表されていない仕組みまで想像し、過度に不安を抱く必要はありません。

 

事業者側が備えるうえで大切なのは、帳簿の数字を元資料と結びつけ、取引の内容を説明できる状態にすることです。売上や経費が大きく変動している場合には、取引先の増減、設備投資、価格改定など、その理由を整理しておくとよいでしょう。

 

税務調査では、事業者のデジタル化の状況に応じて、帳簿書類等の電子データの提供を求められる場合もあります。資料が担当者個人のメールや端末にしか残っていないと、必要なものをすぐに確認できません。保存場所と取り出し方を決めておくことも、日頃の備えになります。

 

自動仕訳は、確認まで自動化されたという意味ではない

会計ソフトの自動取込や仕訳の提案は、入力作業を大幅に減らしてくれます。しかし、登録された内容が、実際の取引や税務上の取扱いに合っているかは確認が必要です。

 

例えば、同じ店舗での購入でも、業務用の備品と私的な買物では処理が異なります。カード明細の店名だけで、支出の目的まで判断することはできません。

 

請求書から入力した経費とカード明細から登録した経費が重複していたり、カード利用時と口座引落時の両方で経費を計上していたりする場合もあります。消費税の税率やインボイスの有無に応じた区分も、元資料と照らし合わせなければ確認できません。

 

さらに、2026年10月からは、インボイス未登録事業者等からの対象仕入れに関する経過措置の控除割合が、80%から70%に変わっています。古い設定や以前の処理方法をそのまま使っていないか、確認しておきましょう。

 

これは、特定の会計ソフトに問題があるという話ではありません。便利な機能を正しく使うためには、連携範囲、登録ルール、保存資料を利用者側で確認する必要がある、ということです。

   

まとめ|税務調査の前に確認したい5つのポイント

ご自身で申告している方は、次の点を点検してみてください。

 
  • 保存資料:カード明細に加え、必要な領収書・請求書が保存されているか。
  • 連携期間:申告対象期間の最初から最後まで、取引が反映されているか。
  • 売上の網羅性:現金売上、未入金の売上、別口座への入金などが漏れていないか。
  • 消費税区分:インボイスの有無、税率、経過措置の処理が正しいか。
  • 二重計上:請求書、カード明細、口座引落しの登録が重複していないか。
 

確認で誤りが見つかった場合は、元資料を基に事実関係と税額への影響を整理しましょう。税務調査の連絡後は、修正申告の時期などによって加算税の取扱いが変わるため、提出を急ぐ前に税理士へ相談することが大切です。

 

会計ソフトは、経理や申告を支える頼もしい道具です。しかし、取り込まれていない取引や、保存されていない請求書まで補ってくれるわけではありません。

 

システムが行ってくれることと、正しい申告ができていることは別です。自動化の便利さを生かしながら、資料の保存と帳簿の確認を組み合わせていきましょう。

 

ご自身で作成した申告内容に不安がある方、税務調査の連絡を受けて準備にお困りの方は、当事務所までお気軽にご相談ください。

 

※本コラムは2026年10月時点の制度に基づく一般的な解説です。具体的な取扱いは、適用する制度や取引内容に応じて確認する必要があります。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

TEL:0586-48-5507 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

スタートアップサポート税理士法人代表者。
総合病院の勤務医のような存在よりも、個々の企業にとってのホームドクターのような存在でありたいと考えております。
日々の細かい会計処理のことから資金繰りや雇用、助成金、企業経営者にとって何でも気軽に相談できる良きパートナーとして専門的知識を生かしていきたい所存です。