2026.07.03 (金)
専業主婦名義の預金は相続財産になる?生活費・贈与・名義預金の注意点
前回は、相続税の税務調査では、亡くなった方本人の預貯金だけでなく、配偶者名義の預貯金も確認されることがあると解説しました。
今回は、特に相談の多い「夫から生活費を受け取り、妻がやりくりして貯めたお金は誰のものか」「夫から妻へ贈与したつもりの預金は相続財産になるのか」という点を中心に説明します。
なお、ここでは分かりやすく「夫が亡くなり、妻が専業主婦であった場合」を前提にしていますが、妻が亡くなり夫が専業主夫であった場合なども、基本的な考え方は同様です。
生活費として渡されたお金と、預金として残ったお金
夫婦間では、収入のある配偶者が生活費を渡し、もう一方が家計を管理することがあります。
夫から妻へ毎月生活費を渡し、妻が食費、日用品、公共料金、医療費、教育費などを支払い、残ったお金を妻名義の口座に貯めているケースは珍しくありません。
この場合、注意したいのは、生活費として渡されたお金と、資産形成として残ったお金を同じように考えてよいとは限らないという点です。
国税庁は、扶養義務者から生活費や教育費に充てるために取得した財産で、通常必要と認められるものについては贈与税がかからないと説明しています。ただし、生活費や教育費として必要な都度、直接これらに充てるためのものに限られ、生活費や教育費の名目で受け取ったお金を預金したり、株式や不動産などの購入資金に充てたりした場合には、贈与税がかかることになるとされています。
つまり、通常の生活に必要な支出に充てられた部分は問題になりにくい一方で、生活費の名目で渡されたお金が使われずに長期間蓄積している場合には、その預金が誰の財産なのかを確認する必要があります。
たとえば、夫から毎月30万円の生活費を受け取り、実際の生活費が20万円程度で、残り10万円を長年妻名義の口座に貯めていたとします。これが少額で一時的なものであれば大きな問題にならないこともありますが、何十年も続き、妻名義の預金が多額になっている場合には、そのお金は妻への贈与だったのか、それとも夫の財産を妻名義で管理していただけなのかが問題になります。
贈与があったと説明する場合の注意点
配偶者名義の預金について、「夫から妻へ贈与したものです」と説明する場合には、贈与の事実を客観的に示せるかが重要です。
贈与税は、個人から財産をもらったときに課税対象となります。国税庁は、贈与税の申告と納税について、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに行う必要があると説明しています。
ただし、相続税の場面では、単に「毎年110万円以下だったから大丈夫」と考えるのは危険です。 贈与税の申告が不要な金額であっても、そもそも贈与が成立していたといえるかは別問題です。夫が妻名義の口座へお金を移していたとしても、妻がその事実を知らない、通帳や印鑑を夫が管理している、妻が自由に使えない、夫が必要に応じて引き出していたという場合には、実質的には夫の財産ではないかと確認される可能性があります。
贈与があったと説明する場合には、少なくとも次の点を確認しておきたいところです。
- 夫婦間で贈与の認識があったか。
- 贈与契約書など、贈与の事実を示す資料があるか。
- 妻がその預金の存在と金額を把握していたか。
- 妻が通帳、印鑑、キャッシュカードを管理していたか。
- 妻が自由に引き出し、使用できる状態だったか。
- 必要に応じて贈与税申告をしていたか。
- 贈与後も夫が実質的に管理していなかったか。
贈与は、形式的に口座へ資金を移せば当然に成立する、というものではありません。相続税の調査では、「本当に妻へ財産が移転していたのか」が確認されます。

相続開始前の贈与にも注意
仮に夫から妻への贈与が成立していたとしても、相続税の計算上、相続開始前の一定期間内の贈与は相続財産に加算される場合があります。
国税庁は、相続等により財産を取得した人が、その相続に係る被相続人から加算対象期間内に暦年課税に係る贈与によって財産を取得している場合には、一定の贈与財産を相続税の課税価格に加算する旨を説明しています。
また、令和5年度税制改正により、暦年課税による生前贈与の相続財産への加算期間は、改正前の3年以内から7年以内へ延長されています。国税庁の税制改正資料でも、相続開始前7年以内に暦年課税による贈与で取得した財産がある場合には、その贈与財産の価額を相続税の課税価格に加算する旨が示されています。
そのため、「贈与しているから相続税とは関係ない」と単純に考えることはできません。贈与が成立しているか、贈与税申告が必要だったか、相続税の生前贈与加算の対象になるかを確認する必要があります。
相続税申告で確認すべき資料
配偶者名義の預金がある場合、相続税申告では、最初から「妻名義だから相続財産ではない」と判断するのではなく、資料を確認したうえで検討することが大切です。
まず、配偶者名義の預金残高を確認します。普通預金だけでなく、定期預金、貯蓄預金、証券口座、保険契約なども確認対象になります。
次に、その預金の原資を確認します。妻自身の給与、年金、相続財産、贈与財産から形成されたものなのか、夫の収入や退職金、不動産売却代金などが移っているのかを確認します。
また、過去の通帳の動きも重要です。夫の口座から妻の口座へ定期的に資金移動がある場合や、夫の退職金・保険金・不動産売却代金が入金された後に妻名義の口座へ大きな資金移動がある場合には、その理由を確認する必要があります。
さらに、通帳、印鑑、キャッシュカードの管理者も確認します。名義人である妻が管理していたのか、夫が一括して管理していたのかによって、財産の帰属判断に影響する可能性があります。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。国税庁も、通常の場合は被相続人の死亡の日の翌日から10か月以内に申告を行うと説明しています。
10か月という期間は長いようで、相続実務では決して余裕があるとはいえません。名義預金の確認が必要な場合には、早めに資料を集めることが重要です。
生前からできる対策
配偶者名義の預金をめぐる問題は、相続が発生してから初めて表面化することが多いです。生前のうちから、夫婦それぞれの財産を整理しておくことで、相続時の説明がしやすくなります。
まず、夫婦それぞれの固有財産を分けて管理することが大切です。夫の給与や事業収入、退職金などを原資とする口座と、妻自身の年金、相続財産、贈与財産などを原資とする口座をできるだけ分けておくと、後から説明しやすくなります。
次に、贈与を行う場合には、贈与の記録を残しましょう。贈与契約書を作成し、振込により資金移動を行い、受け取った側が通帳や印鑑を管理することが大切です。必要があれば贈与税申告も行います。
また、生活費口座と資産形成用の口座を分けることも有効です。生活費として受け取ったお金を日常の支払いに使う口座と、贈与を受けた財産や本人固有財産を管理する口座が混在していると、後から原資を説明しにくくなります。
退職金や不動産売却代金など、大きなお金が動いた場合には、その使い道を記録しておくことも重要です。誰の口座に入金され、どのように使われたのか、妻名義の口座へ移した場合はどのような趣旨だったのかを整理しておくと、相続時の確認がしやすくなります。
まとめ
専業主婦の配偶者名義の預金は、相続税の税務調査で確認されやすい項目です。
生活費として受け取ったお金であっても、使われずに長期間蓄積している場合には、その預金が配偶者自身の財産なのか、亡くなった方の財産を配偶者名義で管理していただけなのかを確認する必要があります。
また、夫から妻へ贈与したと説明する場合でも、贈与の認識、管理状況、使用状況、贈与税申告の有無などが重要になります。口座名義を変えただけでは、当然に贈与が成立したとはいえません。
相続税申告では、名義だけで判断せず、原資、管理、使用状況を丁寧に確認することが大切です。配偶者名義の預金に不安がある場合は、相続発生後に慌てて判断するのではなく、早い段階で専門家に相談し、相続財産に含めるべき金額がないかを確認することをおすすめします。

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