2026.06.19 (金)
相続税のお尋ねはどんな人に届く?税務署が把握している情報と対応方法
前回は、税務署から届く「相続税のお尋ね」の基本的な意味について解説しました。
今回は、もう一歩踏み込み、税務署がどのような情報を把握しているのか、どのような方に相続税のお尋ねが送られやすいのか、そして届いた場合にどのように対応すべきかを解説します。
まず大前提として、税務署がどの人にお尋ねを送るかという具体的な基準は公表されていません。そのため、「この条件に当てはまれば必ず届く」「この条件なら届かない」と断定することはできません。
ただし、税務署は相続税の申告要否を判断するために、法律上提出・通知される情報や、過去の申告情報、財産に関する情報などを確認していると考えられます。
税務署が把握している情報
税務署がまず把握するのは、相続の発生、つまり死亡の事実です。
相続税法第58条に基づく通知に関して、国税庁の運用要領では、法務省が国税庁に死亡または失踪に関する情報を提供することが示されています。これにより、税務署は相続が発生した事実を把握することができます。
そのうえで、相続税の申告が必要となる可能性を検討するため、亡くなった方の過去の所得状況や財産状況に関する情報を確認していると考えられます。
たとえば、亡くなった方が過去に所得税の確定申告をしていた場合、そこから事業所得、不動産所得、譲渡所得、配当所得などの状況を確認することができます。毎年不動産所得がある方であれば、賃貸不動産を所有していた可能性があります。過去に土地や建物を売却していれば、その売却代金が預貯金や有価証券として残っている可能性もあります。
また、生命保険金や死亡退職金についても、税務署が把握し得る情報の一つです。国税庁の手続案内では、生命保険会社や共済事業を行う法人は、生命保険金・共済金受取人別支払調書を提出する対象者とされています。
死亡保険金は、被相続人が保険料を負担していたものについて、相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税対象となる場合があります。国税庁は、相続人が取得した死亡保険金について「500万円×法定相続人の数」までの非課税限度額を説明しています。
同様に、死亡退職金についても相続税の課税対象となる場合があり、相続人が取得した死亡退職金については「500万円×法定相続人の数」までの非課税限度額があります。
そのほか、過去に贈与税申告をしている場合には、生前贈与や相続時精算課税の利用状況も確認対象になり得ます。相続時精算課税を利用して贈与を受けた財産は、相続税の計算に影響するため注意が必要です。
どのような方にお尋ねが届きやすいのか
送付基準は公表されていませんが、一般的には、税務署が把握している情報から、相続税の申告が必要となる可能性があると判断された場合に、お尋ねが送られると考えられます。
たとえば、次のようなケースでは注意が必要です。
- 自宅以外にも不動産を所有している。
- 賃貸不動産を所有し、不動産所得の申告をしていた。
- 過去に土地や建物を売却している。
- 株式や投資信託を保有し、配当所得がある。
- 生命保険金や死亡退職金が支払われている。
- 過去に贈与税申告がある。
- 相続時精算課税を利用している。
- 高額な所得が継続していた。
- 財産債務調書や国外財産調書の提出対象になっていた。
- 固定資産税評価額の高い土地や建物を所有している。
このような情報がある場合、税務署としては、相続財産が基礎控除額を超える可能性があるかどうかを確認する必要があります。
相続税は、正味の遺産額が基礎控除額を超える場合に申告および納税が必要となります。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
ただし、お尋ねが届いたからといって必ず相続税がかかるわけではありません。反対に、お尋ねが届かなかったからといって、相続税の申告が不要とは限りません。
ここは非常に重要です。お尋ねは、あくまで税務署からの確認書類です。相続税の申告義務があるかどうかは、最終的には相続財産の内容、債務・葬儀費用、生前贈与、相続人の数、各種特例の適用可否などを確認して判断する必要があります。

回答するときに注意したいこと
相続税のお尋ねに回答する場合、概算だからといって安易に記入するのは避けるべきです。
特に注意したいのは、預貯金、不動産、生命保険金、死亡退職金、生前贈与、相続時精算課税、家族名義の預金、亡くなる前の大口出金です。
たとえば、亡くなった方の通帳から相続直前に大きな現金が引き出されている場合、そのお金が何に使われたのか確認が必要です。医療費、介護費、葬儀費用、生活費などに使われていれば、その内容を説明できる資料を残しておくことが重要です。使途が不明な場合、相続財産として現金が残っていたのではないかと確認される可能性があります。
また、家族名義の預金にも注意が必要です。名義は配偶者や子どもであっても、実質的に亡くなった方が資金を出し、管理していた預金であれば、相続財産として問題になることがあります。これは相続税の税務調査で非常に確認されやすい論点です。
「家族名義だから書かなくてよい」「通帳に残っていないから関係ない」「昔の贈与だから問題ない」といった判断は危険です。分からない部分がある場合は、推測で記入するのではなく、資料を確認したうえで判断する必要があります。
申告が必要な場合は早めに準備を始める
お尋ねが届いた時点で、相続税の申告が必要となる可能性がある場合は、早めに準備を始める必要があります。
相続税の申告期限は、原則として死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。
10か月というと長く感じるかもしれませんが、相続税申告の実務では決して余裕がある期間ではありません。戸籍収集、相続人確認、財産調査、残高証明取得、不動産評価、過去の通帳確認、生前贈与の確認、遺産分割協議など、やるべきことは多岐にわたります。
特に、不動産の評価や名義預金の確認、生前贈与の整理が必要な場合には、時間がかかります。相続人間で遺産分割の話し合いがまとまっていない場合には、さらに時間を要することもあります。
相続税のお尋ねに回答しただけでは、相続税申告をしたことにはなりません。国税庁の様式でも、申告要否検討表は相続税申告書ではないことが明記されています。
したがって、相続税がかかる可能性がある場合には、お尋ねへの対応だけでなく、正式な相続税申告の準備を進める必要があります。
まとめ
相続税のお尋ねは、税務署が相続税の申告要否を確認するために送付する書類です。税務署は、死亡情報、過去の申告情報、不動産、保険金、死亡退職金、贈与税申告など、さまざまな情報をもとに、相続税の申告が必要となる可能性を確認していると考えられます。
ただし、送付基準は公表されていないため、「届いたから必ず申告が必要」「届かなかったから申告不要」とは言えません。
大切なのは、相続税のお尋ねが届いたかどうかにかかわらず、亡くなった方の財産を正確に整理し、基礎控除額を超えるかどうかを確認することです。
相続税のお尋ねは、税務署からの最初の確認の連絡です。慌てる必要はありませんが、放置せず、預貯金、不動産、保険金、生前贈与、家族名義の預金などを丁寧に確認し、申告が必要かどうかを早めに判断することが重要です。

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