2026.09.11 (金)

売上は伸びているのに、なぜお金が残らない?銀行員25年が教える「成長企業ほど資金繰りが苦しくなる」理由

「売上は去年よりかなり増えているんです。でも、なぜか銀行の預金残高が増えないんですよ。」

 

銀行員時代、経営者から何度も聞いた言葉です。

 

中には、「こんなに忙しいのに、通帳を見ると全然お金がない。」と苦笑いされる社長もいました。

 

売上は伸びている。仕事も増えている。社員も忙しい。利益もそれなりに出ている。それなのに、なぜか預金が増えない。

 

経営者からすると、不思議に感じるかもしれません。「これだけ売上が増えているのだから、お金も増えるはずだ。」そう思うのは自然なことです。

 

しかし銀行員として25年間、多くの中小企業の決算書や資金繰りを見てきた私は、むしろ逆の場面を何度も見てきました。

 

会社は、成長している時ほどお金が必要になることがあります。

 

場合によっては、売上が伸びれば伸びるほど、資金繰りが苦しくなることさえあります。これは決して珍しいことではありません。

 

なぜそんなことが起こるのでしょうか。

 

今回は、「売上は伸びているのに、なぜ預金が増えないのか」という疑問を、銀行の見方からお話ししたいと思います。

   

売上が増えたからといって、その日に現金が増えるわけではない

まず最初に知っていただきたいのは、売上と現金は違うということです。

 

例えば、ある会社が今月1,000万円の商品を販売したとします。会計上は1,000万円の売上です。

 

ところが、その代金が翌月末に入金される契約だったらどうでしょう。

 

今月の売上は1,000万円増えます。しかし、今月の預金は1,000万円増えません。売掛金が1,000万円増えるだけです。

 

そして商品を販売するためには、先に仕入代金を支払っているかもしれません。

 

社員の給与も払います。外注費も払います。運送費も払います。

 

つまり、売上代金が入ってくる前に、お金が出ていくことがあります。

 

会社が成長すると、この金額が大きくなります。

 

これが、売上が伸びているのに預金が増えない大きな理由の一つです。

 

売上1,000万円の会社が2,000万円になると何が起こるか

少し単純化して考えてみましょう。

 

月商1,000万円の会社があります。仕入や外注費などで600万円必要だとします。

 

売上代金は翌月末に入金。仕入代金は当月末に支払う。

 

この会社が成長して、月商2,000万円になったとします。社長からすると、「売上が倍になった。」という嬉しい状態です。

 

しかし、必要な仕入や外注費も増えます。600万円だったものが、1,200万円必要になるかもしれません。

 

その1,200万円は、売上代金2,000万円が入金される前に支払わなければならない。

 

つまり、会社が成長したことで、以前より600万円多く現金が必要になります。

 

売上が増えたのに、預金はむしろ減る。こんなことが実際に起こります。

   

銀行ではこれを「運転資金」として見ている

銀行員が会社を見る時、売上だけを見ているわけではありません。

 
  • 売掛金
  • 在庫
  • 買掛金
 

こうした数字も確認します。

 

なぜなら、ここに会社の資金繰りが表れるからです。

 

例えば、売上が増えれば売掛金も増えます。商品の販売量が増えれば在庫も増えるかもしれません。

 

一方、仕入代金の支払いが先に来れば、その間を会社のお金でつながなければなりません。

 

このように、事業を回すために必要になるお金が運転資金です。

 

経営者は、「売上が増えた。」と見ています。

 

銀行は、「売上が増えたことで、運転資金はいくら増えるだろう。」と見ています。

 

どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

成長企業ほど「売掛金」が膨らむ

銀行員時代、売上が急成長している会社の決算書を見ると、必ず確認していたものがあります。

 

売掛金です。

 

例えば、年商1億円だった会社が、翌年1億5,000万円になった。素晴らしい成長です。

 

でも同時に、売掛金が1,000万円から3,000万円に増えていたらどうでしょう。

 

売上は5,000万円増えています。

 

しかし、まだ回収できていないお金も2,000万円増えています。

 

決算書上では売上です。利益にも反映されます。でも、銀行口座にはまだ入っていません。

 

だから私は、売上が大きく伸びている会社ほど、「売掛金はどうなっていますか。」「回収サイトは変わっていませんか。」と確認していました。

 

売上の成長だけを見るのではなく、その売上がいつ現金になるのかを見るのです。

 

在庫も「お金の姿が変わったもの」

もう一つ大切なのが在庫です。

 
  • 小売業
  • 卸売業
  • 製造業
 

こうした会社では、売上が伸びる前に在庫を増やす必要があります。

 

例えば、これから繁忙期を迎えるため、1,000万円の商品を仕入れたとします。

 

その瞬間、会社のお金がなくなったわけではありません。現金が、在庫という形に変わったのです。

 

しかし、社員への給与を在庫で払うことはできません。税金も在庫では払えません。銀行への返済も在庫ではできません。

 

支払いに使えるのは現金です。

 

だから銀行は、在庫が急に増えている会社を見ると、「なぜ増えたのだろう。」と考えます。

 

売上拡大のための正常な在庫なのか。売れない商品が残っているのか。この違いは非常に重要です。

 

「黒字なのにお金がない」は本当に起こる

経営者からすると、「利益が出ているのだから、お金もあるはずだ。」と思うかもしれません。

 

でも、利益と現金は同じではありません。

 

例えば、利益が1,000万円出ていても、

 
  • 売掛金が2,000万円増えていた
  • 在庫が1,000万円増えていた
  • 設備投資に1,500万円使った
  • 借入金を年間500万円返済した
 

こうしたことが重なれば、利益が出ていても預金は増えません。むしろ減ることがあります。

 

私は銀行員時代、「決算書では黒字なのに、どうしてこんなに資金繰りが苦しいのだろう。」という会社を何度も見てきました。

 

原因を一つずつ確認すると、お金は消えていません。別の場所に移動しているのです。

 
  • 売掛金になっている
  • 在庫になっている
  • 設備になっている
  • 借入返済に使われている
 

だから、損益計算書だけを見ていても資金繰りは分かりません。

 

銀行員時代に見た「急成長した会社」

銀行員時代に見てきたケースをもとに、一つ例を挙げます。

 

ある会社が大口の取引先を獲得しました。社長は本当に喜んでいました。

 

売上は前年の1.5倍ほどになる見込みです。社員も増やしました。仕入も増えました。会社は一気に忙しくなりました。

 

社長も、「これで会社もかなり楽になると思います。」と話されていました。

 

ところが、数か月後。社長から電話がありました。

 

「売上は上がっているのに、資金が足りません。」

 

話を聞いてみると、新しい取引先への売上代金の入金は、従来の取引先より遅い条件になっていました。

 

一方、仕入先への支払い条件は変わりません。

 

さらに、売上増加に対応するため人を採用しています。給与は毎月支払います。在庫も増えました。

 

つまり、売上は大きく増えたものの、入金される前に必要になるお金が、それ以上の勢いで増えていたのです。

 

事業が悪いわけではありません。むしろ順調です。でも、資金繰りは苦しくなりました。

 

これが、「成長している会社ほど資金繰りが苦しくなる」典型的なケースの一つです。

 

会社が成長すると「先に払うお金」が増える

売上が増える時、会社にはいろいろな先行投資が発生します。

 
  • 人を採用する
  • 機械を買う
  • 車を増やす
  • 事務所を広くする
  • 広告費を増やす
  • 仕入を増やす
 

これらの支出は、将来の売上を作るために必要なものです。

 

しかし、将来の売上が入金されるまで待ってはくれません。先にお金が出ていきます。

 

だから私は、成長している社長にこそ、「今後の資金繰りを見ていますか。」と聞いていました。

 

会社が大きくなれば、必要な現金も大きくなる。ここを忘れてはいけません。

 

売上が伸びた時こそ「入金サイト」と「支払サイト」を見る

売上が増えているのに預金が増えない社長に、ぜひ確認していただきたいことがあります。

 

まず、売上代金は何日後に入ってきますか。

 

次に、仕入代金や外注費は何日後に支払っていますか。

 

例えば、売上代金は60日後。仕入代金は30日後。

 

この場合、会社はその差の30日間を自分のお金でつなぐ必要があります。

 

売上規模が小さい時は、それほど大きな問題ではなかったかもしれません。

 

しかし、月商が1,000万円から3,000万円になれば、必要な運転資金も大きく変わります。

 

だから、売上が増えたら、利益率だけではなく、入金と支払いの時間差を見てください。

 

「大型受注が決まりました」は銀行に早めに伝えてほしい

銀行員時代、社長から、「大きな仕事が決まりました。」と報告を受けると、もちろん嬉しく思いました。

 

でも同時に、銀行員として考えることがありました。

 

「仕入資金はいくら必要だろう。」

「外注費は先払いだろうか。」

「売上代金はいつ入るのだろう。」

「今の預金で回るだろうか。」

 

つまり、銀行は売上増加を喜びながら、その裏側にある資金需要を考えています。

 

だから、大きな受注が決まった時は、資金が足りなくなってから銀行へ相談するのではなく、受注した段階で相談してほしいのです。

 

銀行にとっても、「売上が増えるために必要な運転資金です。」という説明は理解しやすいものです。

 

会社が順調な時に相談できれば、資金調達の選択肢も広がります。

 

成長してから借りるのではなく、成長する前に資金を考える

ここは非常に重要です。

 

会社が成長すると、必要な資金が増えます。

 

だから、売上が伸びて資金が足りなくなってから借入を考えるのではなく、売上が伸びる前に資金計画を考えることが大切です。

 

例えば、

 
  • 来期は売上が30%増える予定
  • 大口受注が決まった
  • 新店舗を出す
  • 社員を5人採用する
 

そうした計画があるのであれば、同時に、「その成長を支えるお金はいくら必要なのか。」を考えてください。

 

成長計画と資金計画は、本来セットなのです。

 

「売上を伸ばすこと」だけが社長の仕事ではない

経営者は、どうしても売上に目が向きます。

 

営業を増やしたい。新しい取引先を増やしたい。店舗を増やしたい。会社を大きくしたい。

 

当然です。

 

でも、売上を作ることと、会社に現金を残すことは別の仕事です。

 

売上が伸びても、回収できなければ意味がありません。

 

利益が出ても、資金が回らなければ会社は続きません。

 

だから経営者には、「売上をどう増やすか」と同じくらい、「増えた売上をどう現金に変えるか」を考えてほしいと思っています。

 

預金残高だけではなく「3か月後」を見る

資金繰りが不安になると、毎朝インターネットバンキングを開いて、預金残高を確認する社長がいます。

 

今日、1,000万円ある。だから大丈夫。

 

しかし、今日の預金残高だけでは、会社の安全性は分かりません。

 

来週、500万円の仕入支払いがある。月末には給与がある。翌月には税金がある。その後、借入返済がある。

 

一方で、売掛金はいつ入ってくるのか。

 

そこまで見て初めて、会社のお金の状態が分かります。

 

だから私は、経営者には資金繰り表を作ってほしいと思っています。

 

立派な表でなくても構いません。少なくとも、今月。来月。再来月。できれば半年程度先まで、大きな入金と支払いを確認する。

 

それだけでも、経営の安心感はかなり変わります。

 

「利益が出たから借入を返そう」は少し待ってほしい

業績が良くなると、借入を早く返したいと考える社長もいます。その気持ちはよく分かります。

 

しかし、成長している会社ほど、私は慎重に考えてほしいと思います。

 

例えば、利益が出たので1,000万円を繰上返済した。

 

その直後、大型受注が決まった。仕入資金として1,500万円必要になった。

 

結局、また銀行へ融資相談に行く。

 

こんなことも起こります。

 

借入を減らすことは悪くありません。

 

でも、これから会社が成長するのであれば、その成長を支える現金を残しておくことも大切です。

 

借金が減る安心。現金がある安心。この二つは別物です。

 

銀行は「売上が増えた会社」をどう見ているのか

銀行員として売上が大きく伸びた決算書を見ると、私は単純に、「良かったですね。」だけでは終わりませんでした。

 

次に確認します。

 
  • なぜ増えたのか
  • 一時的な受注なのか
  • 継続する売上なのか
  • 利益率はどうなったか
  • 売掛金は増えていないか
  • 在庫は増えていないか
  • 借入は増えているか
  • 預金はどう動いたか
 

これらを見ます。

 

つまり銀行は、売上の大きさではなく、成長の中身を見ています。

 

売上が増え、利益も増え、現金も増えている。理想的です。

 

しかし、売上は増えた。利益も出ている。それなのに預金が減っている。

 

その場合は、「お金はどこへ行ったのだろう。」と考えます。

 

これは会社を疑っているのではありません。

 

会社の資金構造を理解したいのです。

 

成長している会社ほど銀行との対話が重要になる

業績が悪い時だけ銀行へ相談する。そう考えている経営者もいます。

 

しかし私は逆だと思っています。

 

成長している時こそ、銀行と話をしてほしい。

 

来年、売上を増やす。人を採用する。設備を増やす。新店舗を出す。大口取引が始まる。

 

こうした話を事前に共有しておけば、銀行も将来の資金需要を考えることができます。

 

「それなら運転資金が増えそうですね。」「このタイミングで資金を確保しておきましょうか。」そんな会話ができます。

 

ところが、成長の話は銀行にせず、預金が減ってから、「急ぎで1,000万円お願いします。」となると、銀行も一から状況を確認しなければなりません。

 

資金調達は、お金がなくなってから始めるものではありません。

 

会社の未来が見えた時から始まっています。

 

私が銀行員25年で感じたこと

銀行員として25年間、私は本当にたくさんの会社を見てきました。

 

その中で、資金繰りに苦しんでいる会社は、必ずしも業績の悪い会社ではありませんでした。

 

むしろ、急成長している会社が資金繰りに苦しむ場面も何度も見てきました。

 

経営者は言います。「こんなに仕事があるのに、どうしてお金がないのでしょう。」

 

銀行は考えます。「売上が増えた分だけ、運転資金が増えているのではないか。」

 

経営者は、売上を見ています。銀行は、売上が現金になるまでの流れを見ています。

 

どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

私は銀行員時代、この認識の違いを何度も感じました。

 

だから私は「銀行の見方」を経営者に翻訳したい

私が銀行を辞めたのは、銀行が嫌になったからではありません。

 

むしろ銀行員として25年間働いたからこそ、銀行と経営者の間にある認識の違いを強く感じるようになりました。

 

真面目に働いている。売上も伸ばしている。社員も増えている。それなのに、資金繰りが苦しくなり、「銀行はどうして分かってくれないのだろう。」と悩む経営者がいる。

 

一方で銀行は、「もう少し早く相談していただければ。」と思っている。

 

この間をつなぐ人が必要だと思いました。

 

だから現在は、「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、社長の隣で銀行の見方や財務の考え方を翻訳しています。

 

目的は、融資を受けることではありません。

 

経営者自身が、

 

「なぜお金が減ったのか。」

「これからいくら必要なのか。」

「いつ銀行に相談すべきなのか。」

 

を理解し、自分で判断できるようになることです。

 

財務が分かると、銀行との会話も変わります。

 

そして何より、経営の不安が少しずつ具体的な課題に変わっていきます。

 

まとめ|売上が増えた時こそ、通帳ではなく「お金の流れ」を見る

売上は伸びている。利益も出ている。でも、預金が増えない。そんな時、「もっと売上を増やさなければ。」と考える前に、一度立ち止まってください。

 

確認してほしいのは、

 
  • 売掛金が増えていないか
  • 在庫が増えていないか
  • 入金サイトが長くなっていないか
  • 仕入や外注費の支払いが先行していないか
  • 設備投資に現金を使っていないか
  • 借入返済が増えていないか
 

そして、今後の成長に必要な運転資金を確保できているか。

 

売上が増えることは、会社にとって素晴らしいことです。でも、成長にはお金が必要です。人を増やす。商品を仕入れる。設備を増やす。売掛金が増える。会社が大きくなるほど、動くお金も大きくなります。

 

だから私は、成長している会社の社長にこそ、資金繰りを見てほしいと思っています。

 

銀行員25年の経験から強く感じることがあります。会社は、赤字だから資金繰りに苦しくなるとは限りません。成長が速すぎるから、お金が足りなくなることもあるのです。

 

そして、その成長を止めないために使えるのが銀行です。

 

資金がなくなってから、「貸してください。」と相談するのではありません。「これから売上が増えます。そのためにこれだけ運転資金が必要になります。」そう説明できる会社になってください。

 

銀行から見ても、その方がずっと話を理解しやすくなります。

 

経営者は売上を見ています。銀行は資金の流れを見ています。どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

その違いを知り、売上だけではなく、利益だけでもなく、会社にいくら現金が残るのかまで考える。それが、会社の成長を本当の意味で支える財務だと私は思っています。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

TEL:0586-48-5507 

FAX:0586-64-6644 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。