2026.08.07 (金)

決済代行会社の破綻から考える、経営者が今すぐ見直したい資金繰り

「売上がある」のに、お金が入ってこないリスクとは

2026年7月、クレジットカード決済代行会社「全東信」が破産手続きの開始決定を受けたという報道がありました。

 

報道によると、契約店舗は2万店を超え、少なくとも7月以降の売上金が店舗へ入金されていない可能性があるとされています。売上の多くをキャッシュレス決済が占める飲食店では、「今月の売上金が回収できないかもしれない」という不安の声も紹介されていました。

 

銀行員として25年間、多くの企業の資金繰りを見てきた私が、このニュースを見て最初に思ったことがあります。

 

それは、売上があることと、お金が入ることは全く別の話だということです。

 

そして、この出来事は飲食店だけの問題ではありません。すべての経営者が考えておくべき資金繰りの本質が、このニュースには詰まっています。

 

今回は、この出来事を通して経営者が考えておきたい資金繰りについてお話ししたいと思います。

   

売上は「約束」、現金は「現実」

会社経営では、「今月の売上は1,000万円ありました。」という言葉をよく耳にします。

 

もちろん素晴らしいことです。しかし銀行員時代、私が最初に確認していたのは、「その1,000万円は、いつ現金になりますか。」ということでした。

 
  • 売掛金
  • クレジットカード決済
  • 電子マネー
 

いずれも、売上が計上されても現金になるまでには時間があります。そして今回のように、その途中で決済代行会社に問題が起きれば、売上はあっても現金が入らない可能性があります。

 

だから銀行は、利益よりも資金繰りを重視するのです。

 

「信用していたから」が一番怖い

今回、多くの店舗は決済代行会社を信頼して利用していました。

 

毎月きちんと入金されていた。だから今回も大丈夫だろう。そう思うのは当然です。

 

しかし経営では、「信用しているから大丈夫」だけでは資金繰りは守れません。

 

銀行員時代にも、

 
  • 取引先の倒産
  • 大口顧客の支払遅延
  • 売掛金の回収不能
 

こうした場面を何度も見てきました。

 

そのたびに感じたのは、経営者は、「もし入金されなかったらどうするか」まで考えておく必要があるということです。

 
 

売上の6割がカード決済という現実

報道では、ある飲食店の経営者が「売上の6割がカード決済だった」と話していました。今では珍しい話ではありません。

 

飲食店だけではなく、

 
  • 美容室
  • クリニック
  • 整体院
  • 小売店
  • 宿泊業
 

キャッシュレス決済は経営に欠かせない存在になっています。

 

便利だから使う。お客様のためにも必要。その通りです。

 

私もキャッシュレス決済を否定するつもりはありません。でも経営者としては、便利さと同時に、リスクも理解しておくことが大切です。

 

銀行員時代、資金繰りが強い会社には共通点があった

資金繰りが安定している会社には、ある共通点がありました。

 

それは、一つの資金源に依存しないことです。

 

例えば、

 
  • 売掛金の回収先が分散している
  • 金融機関も複数と付き合っている
  • 決済手段も一つだけではない
 

そして何より、一定の預金を確保していました。

 

「何かあった時のためのお金」を残していたのです。

 

こうした会社は、突然のトラブルにも対応できました。

 

印象に残っている一人の経営者

今でも忘れられない経営者がいます。

 

その会社は、大口取引先一社への売上依存度が非常に高い会社でした。

 

ある日、その取引先からの入金が一か月遅れました。

 

売上はあります。利益も出ています。でも現金がありません。

 
  • 社員への給与
  • 仕入れ代金
  • 家賃
  • 税金
 

すべて支払日は待ってくれません。

 

幸い銀行として支援することができましたが、その社長が後でこう言われました。

 

「売上があるから安心していました。」

 

その言葉が今でも忘れられません。

 

会社を守るのは売上ではありません。現金です。

 

「利益」と「資金繰り」は違う

このブログでも何度もお伝えしていますが、利益と資金繰りは違います。

 

利益が出ていても、お金が入らなければ支払いはできません。逆に、利益が少ない時期でも、十分な現金があれば会社は慌てません。

 

銀行員時代、決算書を見る時に一番気になったのは、預金残高でした。

 

この会社は、何かあっても数か月耐えられるだろうか。そういう視点で見ていました。

 

今回のニュースも、まさにその大切さを教えてくれています。

 

経営者が今、見直したい5つのこと

今回の出来事をきっかけに、ぜひ確認していただきたいことがあります。

 

① 預金は何か月分あるか

固定費の何か月分を預金で賄えるでしょうか。

 

② 売上回収先は偏っていないか

一社、一つの決済会社への依存が大きくないでしょうか。

 

③ 入金サイトを理解しているか

売上が現金になるまでの日数を把握していますか。

 

④ 緊急時の資金調達手段はあるか

金融機関との関係はできていますか。

 

⑤ 資金繰り表を作っているか

「今あるお金」だけではなく、一か月後、三か月後まで見えていますか。

 

私がこのテーマを伝えたい理由

銀行員として25年間、私は多くの経営者を見てきました。

 

皆さん本当に真面目でした。一生懸命仕事をしていました。売上を伸ばそうと努力していました。

 

でも、資金繰りで苦しむ会社もありました。

 

原因は赤字ではありません。現金が足りなかったのです。

 

私はその姿を何度も見てきました。

 

だから今、銀行の考え方を経営者に翻訳する仕事をしています。

 

銀行が見ているのは、利益だけではありません。

 
  • 資金繰り
  • 預金
  • 現金
 

今回のニュースは、決済代行会社の問題として終わらせるべきではありません。

 

経営者一人ひとりが、「もし明日、大切な入金が止まったら」という視点で会社を見るきっかけにしていただきたいと思っています。

 

まとめ

全東信の破綻は、決済代行会社だけの問題ではありません。

 

経営者にとって改めて考えるべきことがあります。

 

売上があることと、現金があることは違う。

 

会社を守るのは、売上ではありません。利益だけでもありません。会社を守るのは、資金繰りです。

 

だからこそ、経営者には日頃から、

 
  • 預金を確保すること
  • 資金繰り表を作ること
  • 金融機関との関係を築くこと
  • 一つの回収先に依存しないこと
 

を意識していただきたいと思います。

 

私は銀行員時代、多くの会社が資金繰りで悩む姿を見てきました。

 

そして今も思います。資金繰りは、問題が起きてから考えるものではありません。問題が起きる前に準備するものです。

 

今回のニュースをきっかけに、ぜひ一度、自社の資金繰りを見直してみてください。

 

その時間が、会社の未来を守る大切な経営判断になるかもしれません。

 
 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。