2024.03.25 (月)
インボイス制度が税務調査に与える大きな影響とは?気を付けるべきポイントを税理士が解説します。
目次
コロナ禍も過ぎ去り、税務調査の実施件数もコロナ前の水準に戻りました。そこで気になるのは、インボイス制度が始まって税務調査に影響があるのかということです。
本記事では、インボイス制度によって税務調査に与えるだろう大きな影響について、気を付けるべきポイントを税理士が詳しく解説します。
インボイス制度の開始とそれによって変わったこと
インボイス制度が始まり、事業者が感じていることは「経理業務が煩雑になった」ということではないでしょうか。
ただ、最初に言っておきますが税務調査においてインボイスの不備など、重箱の隅を楊枝でほじくるようなことはしないと、国税庁長官が言及しています。
では税務調査において考えられる影響はどのようなことなのか、税制改正大綱の見直しを踏まえながら考えてみましょう。
消費税の免税事業者とインボイス
インボイス制度が導入されたことで一番大きく変わった点は、税務調査において確認する証憑類から、事業者が消費税の課税事業者か免税事業者が一目で判別できることです。
これは税務調査以外のシーンでも確認できるわけで、例えば税務署職員があるお店を利用し、領収書を受領するだけで分かります。
もしインボイスに対応した領収書であれば、登録番号から消費税の申告が適切に行われているのかすぐに確認できます。
当り前のことですが、インボイスの登録番号を管理しているのは国税庁なので、すぐに照合できるわけです。
また、免税事業者だった場合でも(税務署の習性として)、所得の申告がなされているか調べることになります。
つまり、インボイス制度の導入によって無申告者の洗い出しがスムーズになることが、一番大きな影響だと考えられます。
国税当局の狙いとは?
国税当局の事務年度末の6月に毎年公表される「国税庁レポート」ですが、その中では国税庁の取組の紹介や目指す方向などが示されています。
最新の「国税庁レポート2023」を見ると、最近同じことが書かれ続けていますが「資料情報を活用し、的確に無申告者を把握」することを重点項目の一つに挙げています。
最近はシェアリングエコノミーなど、個人が収入を得る手段が多くなったことから、無申告者も増加していると考えられているからでしょう。
国税庁レポートでも、以下のような無申告事例が紹介されています。
- 動画配信により多額の利益を得ていたが、当該利益を隠蔽し、申告をしなかった事実を把握
- いわゆる「ギャラ飲み」による多額の収益を得ており、所得税の申告が必要であったが、申告をしなかった事実を把握
- 被相続人の銀行口座から生前に出金して自宅に保管していた多額の現金があり、相続税の申告が必要であると認識しながら、申告をしなかった事実を把握
引用:国税庁レポート2023
また国税庁はデジタル化の推進に力を入れており、国税総合管理(KSK)システムなどデータの蓄積がかなり進んでいると思われます。
このシステムに蓄積されるデータに、インボイスに関する情報も加わることで、より確実に無申告者を補足出来るようになるでしょう。
無申告者撲滅へ罰則強化と最近のニュース
令和5年度の税制改正法では、無申告に対して2つのペナルティが追加されました。
一つは従来からあった「無申告加算税」の見直しで、もう一つは「繰り返し行われる無申告」への加重措置の新設です。
この改正では、「社会通念に照らして申告義務を認識していなかったとは言い難い規模の高額無申告」のペナルティを引き上げ、新たに300万円を超える無申告加算税が追加されました。
【改正後の無申告加算税】
50万円まで | 50~300万円 | 300万円超 | |
税務調査を受けた後の申告 | 15% | 20% | 30% |
事前通知の後の申告 | 10% | 15% | 25% |
また、一定期間無申告を続けている「悪質な無申告常習者」に対して、罰則が強化されていますが、それに合わせたかのような税務調査がニュースになっています。
インスタグラムやブログで子供服などの商品を宣伝し、多額の報酬を得ながら確定申告をしていなかった女性インフルエンサーが大阪国税局の税務調査によって無申告を指摘された事例は大きく報道されました。
なんと、5年間で仮装・隠蔽を伴う約9500万円の所得隠しを指摘され、重加算税を含む所得税約4000万円を追徴課税されています。
今後もこのような税務調査は確実に増えるので、無申告は絶対に避けなければなりません。
税務調査でインボイスを徹底チェックするのか?
最初にも言ったとおり、実際の税務調査においては柔軟な対応を取ることが決められました。
2023年8月25日に公表された「インボイス制度の周知広報の取組方針等について」において、税務調査について以下のような方針が示されています。
- これまでも、保存書類の軽微な記載不備を目的とした調査は実施していない。
- 従来から、大口・悪質な不正計算が想定されるなど、調査必要度の高い納税者を対象に重点的に実施。
- 仮に、調査等の過程で、インボイスの記載事項の不足等の軽微なミスを把握しても、
- インボイスに必要な記載事項を他の書類等で確認する。
- 修正インボイスを交付することにより事業者間でその不足等を改める、といった対応を行う。
- まずは制度の定着を図ることが重要であり、柔軟に対応していく。
今後数年に関しては、税務調査においてインボイスの不備を強く追及されることはないでしょう。 ただ、消費税の還付申告など重点調査対象の場合だけは注意が必要です。
一番影響を受けそうなのは「無申告者」
インボイス制度には2つの側面があり、一つはニュースなどでも批判されていたとおり実質的な消費税免税制度の廃止です。
つまり「消費税を取れるところから取る」制度といっても言い過ぎではないでしょう。
もう一つは、国税庁が最近力を入れている「無申告者の補足」のための情報収集手段であるという側面です。
今後の税務調査では、従来通り「申告が適正に行われているか」の確認とともに、取引データが大量に収集されることになるでしょう。
この点を考えると、インボイス制度始まってからの税務調査で一番影響を受けるのは、確定申告していない「無申告者」となり、取引先に税務調査が入った場合に注意が必要です。
恐らく、膨大に蓄積された情報とAIを活用することで、調査対象の選定がより高精度で行われるようになるでしょう。
もし確定申告をしていない、あるいは申告内容に自信のない方は、税理士などの専門家に相談する事がオススメです。
まとめ
インボイス制度は、小規模事業者への負担増加ばかり注目されていますが、実は税務調査における収集データの精度向上という隠れた目的が考えられます。
ただ、無暗に税務調査を恐れる必要はありません。適正な申告を行っていれば、調査を受けたる可能性は低く、あったとしても追徴課税もないでしょう。
ただ、悪質な事例は別として、税への知識不足で税務署から指摘を受けるまえに、税の専門家を活用することが安心のための第一歩となります。
税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。
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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。