2024.08.29 (木)
【資金調達】スタートアップ企業が利用できる融資制度とは?専門税理士が解説します。
目次
新規に事業を始める事業者を指して「スタートアップ企業」や「ベンチャー企業」という言葉を目にしたことがあると思います。
どちらも似たようなイメージを受けますが、厳密には別々のものとして分けられていることをご存じでしたでしょうか。
ただ、いずれの場合も事業スタートにあたってはまとまった資金が必要で、資金調達も簡単には出来ません。
本記事ではスタートアップ企業の特徴と、事業を創業するにあたって利用できる融資制度を、専門税理士が詳しく解説します。
スタートアップ企業とは?日本とアメリカで大きく違う事業環境
スタートアップとは、IT企業の聖地ともいわれるアメリカ・シリコンバレーで使われ始めた言葉で、世になかった革新的な事業を始めることを指します。
日本では長くベンチャー企業と同一視されていますが、その定義を整理したうえで創業を取り巻く日本とアメリカの決定的な違い、そして日本のスタートアップ企業が取りうる資金調達方法を考えてみましょう。
意外と知られていないスタートアップ企業の定義
経済産業省が2024年7月に公表した「スタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速する」という資料で、スタートアップ企業を以下のように定義しています。
- 新しい企業であって、
- 新しい技術やビジネスモデル(イノベーション)を有し、
- 急成長を目指す企業
経済産業省は他の資料でも、「ビジネスに斬新性があり、イノベーション、社会貢献を意識している」「出口戦略(イグジット)を検討している」としています。 ここでいう出口戦略とは短期間での利益回収を意味し、創業後一気に急成長して巨大な利益を回収するアメリカIT企業をイメージすれば分かりやすいでしょう。
スタートアップ企業とベンチャー企業の違い
日本では新機軸を打ち出して創業する事業者を「ベンチャー企業」と呼ぶことが多かったのですが、スタートアップ企業とは違い既存のビジネスをベースにした企業のことを指します。
今まであったビジネスモデルをベースに、新たな付加価値を創造するという点から、スタートアップ企業より成長速度は遅いものの、確実性が高い新規事業だといえるでしょう。 この「ベンチャー企業」という言葉は和製英語なので、広義にはスタートアップ企業も含まれますが、日本における資金調達の難しさは同じだともいえます。
スタートアップ企業の資金調達方法にみる日米の違い
出来るかどうかは別にして、岸田内閣は2022年を「スタートアップ創出元年」と宣言しました。
そう言いだしたのには訳があり、スタートアップ企業の資金調達に関して日本がアメリカにかなり遅れを取っている現実があるからです。
アメリカでは「Google」や「Amazon」、「Meta(旧Facebook)」といったスタートアップ企業が急成長を遂げ、生み出した多くのイノベーションが世の中に大きな影響を与えています。
これらのスタートアップ企業は、個人投資家やベンチャーキャピタルから資金を集め、それを元手に急成長していますが、日本にはそうした土壌が育っていません。
日本はマーケットサイズが小さく、スタートアップへの投資額も米国の100分の1に過ぎないのが実情です。
日本のスタートアップ企業が考えられる資金調達方法
日本でスタートアップ企業、あるいはベンチャー企業を創業しようとしたら、現実的には融資制度も活用しなければ資金調達は上手くいきません。
もちろん融資だけで資金を賄うのはリスクもあるのですが、以下の資金調達方法を複数組み合わせることが現実的です。
- 融資
- 出資(個人投資家やベンチャーキャピタル)
- 補助金・助成金(政府や地方自治体)
- その他(クラウドファンディングやコンテストの賞金)
どれもハードルが高く、時間もかかることが分かると思います。そこで次の章では比較的現実性の高い融資の活用について掘り下げていきます。
スタートアップ企業が利用できる金融機関とは?それぞれの特徴を知ろう
スタートアップ企業といえば聞こえは良いのですが、融資する側から見れば「実績のない海のものとも山のものとも分からない相手」ともいえます。 そんな一般的常識に捉われていてはスタートアップなど覚束ないので、利用できる融資制度・金融機関について、それぞれの特徴やメリットとデメリットを知っておきましょう。
融資してくれる可能性のある金融機関
融資とは「お金を必要とする者に貸し、資金を融通すること」で、貸してくれる金融機関等は早い話「金貸し」です。
金貸しの事業目的は、融資した資金に利息を付すことで収益を上げることの一方、貸したお金が返ってこないリスク管理も必要なので、簡単に貸してくれないのは想像に難くありません。
スタートアップ企業にお金を貸してくれる可能性のある事業者をピックアップしてみます。
- 銀行や信用金庫などの民間金融機関
- 日本政策金融公庫などの政府系金融機関
- 地方自治体などが後押しする制度融資(融資するのは金融機関)
- ノンバンクのビジネスローン
- 怪しい街金
融資は利息というコストが発生するので、それが高くなるノンバンクの利用は避けるべきですし、街金などは論外です。 現実的には最初の3つが選択肢となるのですが、それぞれについて詳しく確認していきましょう。
日本政策金融公庫の新規開業資金
日本で事業を始めようとする個人・法人が、必ず融資を申し込むといっても過言でないのが「日本政策金融公庫」です。
日本政策金融公庫は政府系金融機関(政策金融機関)で、政府が経済発展、国民生活の安定などといった一定の政策を実現する目的で、特に法律を制定することにより設立した特殊法人で、営利性の低い金融機関だといえます。 では日本政策金融公庫でスタートアップに活用できる融資は、どのようなものがあるのか確認しましょう。
新規開業資金の融資条件
日本政府がスタートアップ企業やベンチャー企業などの創業を後押ししていることから、日本政策金融公庫も2024年4月から新規開業資金の融資を拡充しています。
それ以前は「新創業融資制度」という融資だったのが刷新され、以下のような条件に当てはまる方への融資となり、融資限度額も拡充されました。
ご利用いただける方 | 新たに事業を始める方または事業開始後おおむね7年以内の方 | |
資金のお使いみち | 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 | |
融資限度額 | 7,200万円(うち運転資金4,800万円) | |
融資期間 | 設備資金 | 20年以内<うち据置期間5年以内> |
運転資金 | 10年以内<うち据置期間5年以内> |
2024年3月までの「新創業融資制度」では、融資額は最大3,000万円(うち運転資金1,500万円)だったので拡充ぶりが理解できると思います。
新規開業資金のメリットとデメリット
日本政策金融公庫の新規開業資金を利用するメリットは、利率の低さや新規開業を後押しするという政策的な後押しが強いところでしょう。
もし日本政策金融公庫の融資に申し込んで、融資を断られる場合は開業計画自体が杜撰すぎたという可能性すらあります。
大きなデメリットもないので申し込むのは当然として、事業計画に妥当性については税理士などの専門家の知見を仰いだほうがよいでしょう。
自治体・信用保証協会の制度融資
一般的に「制度融資」とは、自治体・金融機関・信用保証協会が連携して行う融資のことを指します。
当たり前のことですが、制度を後押ししている地方自治体や経済産業省が直接融資をしないので、審査を経たうえで信用保証協会がバックアップし金融機関が融資します。
制度融資の仕組みとメリット
制度融資を申し込む場合、通常は地方自治体あるいは信用保証協会に申し込むことになります。
申込書類は面倒なものの審査基準は緩めなケースが多く、利率も低めに設定されていることから利用を積極的に検討しましょう。
制度融資のデメリットとスタートアップ創出促進保証制度
融資制度は表面上の利率は低いのですが、保証協会を利用する必要があるので別途保証料が必要になります。
トータルでは若干高コストになる可能性があるので、その点には注意が必要です。
また、融資に至るまでの書類や手続きの多さが煩雑なので、すぐに事業を始めたい場合などのケースでは使いづらさを感じるかもしれません。
民間金融機関による融資
都市銀行や地方銀行、信用金庫などから直接融資を受ける方法もあります。事業者ではなくても住宅ローンの融資などを受けた方は多いでしょう。 では新規事業を始めるにあたって、民間金融機関からの融資は住宅ローンのように受けられるのでしょうか?その点について、現実を確認してみます。
民間金融機関は取引実績を重視するためハードルが高い
民間金融機関は、利用価値のある顧客には良い顔を見せながら、そうではないと判断した人には冷たい態度を取るものです。
百歩譲って考えられるのは、ベンチャー企業を起業する方が取引先のキーパーソンであって、その成功確率が高いケースなら融資してくれるかもしれません。
有名な話ですが、創業間もないホンダの社長だった本田宗一郎が静岡銀行を訪れ、東京進出のための融資を申し込んだところ当時の支店長が無謀さを滔々と語り、キレた本田宗一郎が「もう、お前のところで融資を頼まん」と言い捨てたという伝説が全てを物語っています。 あのホンダですらそうだったのですから、想像すれば分かるでしょう。
もし融資してもらえたら信用度がアップ
それほどまでに貸さない民間金融機関なので、逆に借りることができたら信用度がアップするというメリットもあります。
ただ、多くの事例では申し込んでも撃沈しているので、コネがあるなどの場合を除き期待しない方が良いでしょう。
まとめ
新規創業で利用できる融資について解説してきましたが、意外と選択肢が狭いことが理解できたと思います。
本来であれば創業時の資金調達は融資以外に頼りたいところですが、創業環境の貧弱な日本では仕方のないことです。
このような現実を踏まえ、資金計画を考えるときは創業に強い税理士などの専門家に相談し、無理のない資金計画を立てることが失敗しないための道です。
税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。
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