2026.09.18 (金)

その設備投資、本当に現金で払いますか?銀行員25年が教える「借入を上手に使う会社」の考え方

「設備投資くらい、現金で払った方がいいですよね。」

 

経営者の方から、こんな言葉を聞くことがあります。

 

会社に預金がある、借金はなるべく増やしたくない、利息も払いたくない。だから、設備投資は現金で払う。とても堅実な考え方に見えます。実際、現金で払うこと自体が間違いではありません。

 

ただ、銀行員として25年間、多くの設備投資や資金調達を見てきた私は、その場面で必ずもう一つ考えていました。

 

「この支払いをした後、会社にいくら現金が残るだろう。」

 

ということです。

 

設備投資では、「払えるかどうか」だけでは足りません。大切なのは、払った後も会社が安心して経営できるかどうかです。

 

私は銀行員時代、借入を嫌って現金を使い過ぎた結果、その後の資金繰りが苦しくなった会社を何度も見てきました。反対に、あえて借入を利用し、手元資金を厚く残したことで、次の投資や急なトラブルにも対応できた会社も見てきました。

 

今日は、「借入を上手に使う会社」は何を考えているのか。設備投資を現金で払う前に、社長に一度考えていただきたいことをお話しします。

   

「現金があるから払える」は、財務判断として十分ではない

例えば、会社の預金が3,000万円あるとします。そこへ2,000万円の設備投資の話が出てきた。社長は考えます。「預金が3,000万円あるから、現金で払える。」確かに払えます。しかし支払い後の預金は1,000万円です。

 

ここで私は、設備の価格よりも、残った1,000万円を見ると思います。

 
  • 毎月の固定費はいくらか
  • 借入返済はいくらあるか
  • 賞与の支払いは近くないか
  • 税金はいくら必要か
  • 売上代金の入金は安定しているか
  • 何かあった時に耐えられるか
 

そこまで見ないと、本当に「払える」とは言えません。

 

現金で決済できることと、経営として現金で払うべきことは別です。

 

設備投資をすると、その設備だけで終わらない

設備投資では、本体価格だけを見て判断してしまうことがあります。

 

しかし実際には、設備を導入すると、関連する支出が発生することがあります。

 
  • 設置工事
  • 電気工事
  • 改装費
  • 搬入費
  • 採用費
  • 教育費
  • 広告費
  • 仕入増加
  • 追加備品
 

想定していた以上にお金が必要になることは珍しくありません。

 

例えば、機械そのものは2,000万円だった。でも導入後に、追加工事300万円、関連設備200万円、人員増加による給与負担、新しい仕事を受注するための仕入資金。気がつけば、最初に想定した金額より大きな現金が出ていくことがあります。

 

設備を買えるかどうかだけではなく、設備を稼働させるまでの資金まで考える。

 

これが非常に大切です。

 

銀行は「設備の価格」だけを見ていない

銀行に設備資金の相談をすると、見積書を求められることが多いと思います。

 

そのため経営者は、「銀行はこの機械にいくらかかるかを見ている。」と思うかもしれません。

 

もちろん見ています。でも、それだけではありません。

 

銀行員だった私は、設備投資後の会社を見るようにしていました。

 
  • この設備で売上はどのくらい増えるのか
  • 利益はどのくらい増えるのか
  • 返済できるのか
  • 設備投資後も運転資金は足りるのか
  • 預金はいくら残るのか
 

つまり、銀行は設備そのものより、設備投資後の会社がどうなるかを見ています。

 

経営者は「借入額」を見る。銀行は「手元資金とのバランス」を見る

経営者は、「これ以上借入を増やしたくない。」と考えます。銀行は、「設備投資後に現金が残るか。」と考えます。ここに、また認識のズレがあります。

 

例えば、A社。

 
  • 預金3,000万円
  • 借入2,000万円
  • 2,000万円の設備を現金で購入
  • 購入後の預金は1,000万円
 

B社。

 
  • 同じく預金3,000万円
  • 借入2,000万円
  • 設備投資2,000万円について銀行から1,500万円を借り、500万円だけ自己資金を使う
  • 購入後の預金は2,500万円
 

当然、B社の方が借入は増えます。毎月の返済も増えます。しかし、手元資金は厚く残っています。

 

では、突然1,500万円の資金需要が出た時、どちらの会社が落ち着いて判断できるでしょうか。

 

単純に借入が少ないからA社が安全とは言い切れません。

   

「借金を増やしたくない」は、とてもよく分かります

銀行員時代、真面目な経営者ほど借入を嫌う傾向がありました。

 

「借金は早く返したい。」

「できれば無借金にしたい。」

「利息を払うのがもったいない。」

 

気持ちはよく分かります。

 

私自身も、不要な借入を増やすことが良いとは思っていません。しかし、会社経営で考えるべきなのは、借入を減らすことだけではありません。

 

会社を継続すること、社員の給与を払うこと、次の投資ができること、突然のトラブルにも対応できること。これらも同じくらい大切です。

 

借入ゼロで、預金もほとんどない会社。

 

借入はあるけれど、十分な預金がある会社。

 

私は銀行員時代、後者の方が安心して見られる場面を何度も経験しました。

 

印象に残っている二つの設備投資

銀行員時代に見てきたケースをもとに、二つの会社を例に考えてみます。

 

A社は業績が好調でした。預金も十分にありました。社長は新しい設備を導入することにしました。設備価格は大きな金額でしたが、「銀行から借りるほどではない。」と現金で支払いました。その時は問題ありませんでした。

 

ところが数か月後、大口取引先の入金が遅れました。さらに原材料価格も上昇。資金繰りが一気に厳しくなりました。

 

社長は銀行へ相談に来られました。「設備を現金で買わなければよかった。」そう話されたことが印象に残っています。

 

一方、B社も同じように設備投資をしました。こちらの社長は、自己資金でも払える状態でした。しかし、銀行と相談し、設備資金の一部を借入で調達しました。社長はこう話されました。

 

「借入は増えますが、会社に現金を残しておきたいんです。」

 

設備導入後、新しい取引が増え、追加の仕入資金が必要になりました。しかし、手元資金に余裕があったため、すぐに対応できました。借入を利用したことで、次の成長機会をつかめたのです。

 

この違いは、借入があるかないかではありません。

 

お金を残すことを経営判断として考えていたかどうかだと思います。

 

設備はお金を生むまでに時間がかかる

設備投資をした瞬間から、売上が増えるとは限りません。

 

機械を入れる。社員が操作を覚える。営業する。受注する。納品する。請求する。入金される。

 

現金として戻ってくるまでには時間があります。ところが、設備代金は先に出ていきます。

 

借入を利用した場合でも、返済は比較的早い段階から始まることがあります。

 

だから設備投資では、「この設備で利益が出るか」だけではなく、現金が戻ってくるまで会社が耐えられるかを考える必要があります。

 

銀行が資金繰りを見る理由も、ここにあります。

 

設備投資では「投資回収」も考えてほしい

設備投資の相談で、「この機械を入れれば売上が増えます。」という説明を聞くことがあります。

 

そこで銀行員だった私は、もう一歩聞きます。「どのくらい利益が増えますか。」

 

売上だけでは足りません。設備を入れることで、電気代が増える、人件費が増える、保守費用が増える、リース料や借入返済が発生する。こうしたコストもあります。

 

最終的に、設備投資した金額を何年で回収できるのか。ここは経営判断として非常に重要です。

 

3,000万円の設備を入れ、年間500万円の追加キャッシュを生むのであれば、単純計算では回収に時間がかかります。その間、設備の更新時期や故障リスクもあります。

 

「買えるから買う。」ではなく、「この投資は会社にどんな現金を生むのか。」

 

ここまで考えることが大切です。

 

借入期間と設備の寿命を合わせる

設備投資で借入を利用する時、私は返済期間も大切だと考えています。

 

例えば、長期間使う機械を買ったのに、短期間で返済しようとすると、毎月の返済額が大きくなります。設備は10年使うのに、借入を3年で返す。これでは資金繰りが苦しくなることがあります。

 

逆に、設備が生み出す利益と耐用年数を考えながら、返済期間を設計する。そうすると、設備が稼ぎながら借入を返す形に近づきます。

 

借入は、ただお金を用意する方法ではありません。

 

投資と回収の時間を調整する道具でもあるのです。

 

借入には「時間を買う」という役割がある

私は、設備投資の借入にはもう一つ大きな意味があると思っています。

 

それは、時間を買うことです。

 

仮に2,000万円の設備を現金で買えば、今日2,000万円が出ていきます。一方、銀行から設備資金を借りれば、数年間かけて返済できます。

 

もちろん利息はかかります。でも、会社はその間に設備を使い、売上や利益を作ることができます。

 

つまり、将来生み出す利益で投資代金を返していく。これが設備資金の基本的な考え方の一つです。

 

利息だけを見ると、「現金で払った方が得」と思うかもしれません。

 

でも財務では、利息だけではなく、手元資金を残す価値も考える必要があります。

 

会社の現金には「役割」がある

預金口座に2,000万円あると、その2,000万円すべてが自由に使えるお金に見えるかもしれません。しかし実際には違います。

 

来月の給与。仕入代金。税金。社会保険料。借入返済。賞与。突然の修繕費。

 

会社の預金には、これから支払うべきお金が含まれています。

 

だから、通帳に3,000万円あるからといって、3,000万円すべてを設備投資に使えるわけではありません。

 

私は、経営者には預金残高ではなく、「自由に使える現金はいくらなのか」を考えてほしいと思っています。

 

設備投資後に最低いくら残すか

「では、いくら現金を残せばいいですか。」

 

よく聞かれます。残念ながら、すべての会社に共通する答えはありません。

 

業種によって違います。毎月の固定費によっても違います。売掛金の回収条件でも違います。季節変動の大きさでも変わります。

 

ただ、設備投資をする前には最低限、

 
  • 毎月いくらお金が出るのか
  • 数か月売上が落ちても耐えられるか
  • 大口入金が遅れても支払えるか
  • 納税資金は確保されているか
  • 次の賞与は払えるか
 

こうしたことを確認してください。

 

そのうえで残したい金額を決める。そして、不足する設備資金について借入を検討する。

 

この順番が大切です。

 

現金があると「次の一手」が打てる

銀行員として25年間会社を見てきて、現金がある会社の強さを何度も感じました。

 

現金がある会社は、突然良い物件が出た時に動けます。新しい機械が必要になった時に検討できます。

 

優秀な人材が現れた時に採用できます。仕入先から有利な条件を提示された時に応じられます。

 

逆に、現金がほとんどないと、良い話が来ても動けません。銀行に相談して、資料を作って、審査を待つ。その間にチャンスがなくなることもあります。

 

だから私は、現金を単なる「余っているお金」とは考えていません。

 

現金は、会社の選択肢です。

 

「現金で払える会社」ほど、借入を検討してほしい理由

ここが少し逆説的なところです。

 

設備を現金で払えるほど財務に余裕がある会社ほど、銀行から見ても融資を検討しやすい場合があります。

 

業績が良い。預金がある。返済力もある。だから銀行は貸しやすい。

 

一方、現金を使い切った後で、「やっぱり運転資金が足りません。」と相談すると、会社の状態が変わっていることがあります。

 

以前の記事でもお伝えしましたが、「借りられる時」と「借りたい時」は同じとは限りません。

 

設備投資も同じです。

 

今、現金で払える。だからこそ、一部を借入で調達して現金を残すという選択肢も考えてみる。

 

それが財務戦略です。

 

借入を上手に使う会社は「借金」を見ていない

銀行員時代、借入を上手に使っている社長には共通点がありました。

 

「借金がいくらあるか。」だけを見ていませんでした。

 

その代わり、

 
  • 何のために借りるのか
  • 何年で返すのか
  • その投資は何を生むのか
  • 手元にいくら現金を残すのか
 

ここを考えていました。

 

借入額5,000万円と聞けば、大きな金額に感じるかもしれません。でも、その5,000万円で設備を導入し、毎年十分なキャッシュを生み出し、手元資金も確保できているなら、必ずしも危険な借入ではありません。

 

一方、借入が500万円しかなくても、預金がほとんどなく、毎月の返済にも苦しんでいる会社は安心できません。

 

大切なのは、金額そのものではありません。

 

会社全体のバランスです。

 

銀行は「借りる会社」を評価しているわけではない

ここも誤解されやすいところです。銀行だから、借入を増やした会社を評価する。そういうことではありません。

 

銀行が見ているのは、その借入が会社にとって合理的かどうかです。

 

設備投資の目的は明確か。利益を生む見込みがあるか。返済できるか。

 

設備投資後の資金繰りは大丈夫か。社長自身が、その判断を説明できるか。

 

銀行はそこを見ています。

 

つまり、「銀行に勧められたから借ります。」でもなく、「借金が嫌だから全部現金で払います。」でもない。

 

社長自身が、自社にとって最も良い資金配分を考えることが大切なのです。

 

設備投資を決める前に、銀行に相談してほしい

銀行への相談というと、機械を買うことを決めて、契約して、支払日が決まってから行く。そういう社長もいます。

 

私は、できればその前に相談してほしいと思っています。

 

「来年、設備投資を考えています。」

「2,000万円くらいになりそうです。」

「現金でも払えますが、どういう資金調達が考えられますか。」

 

この段階で十分です。

 

銀行も、返済期間、設備資金、手元資金、運転資金への影響、さまざまな視点から考えることができます。

 

社長も、現金で払う、一部借りる、全額借りる、リースなど他の方法を使う。複数の選択肢を比較できます。

 

経営で大切なのは、選択肢を持つことです。

 

私が銀行員25年で見た「強い会社」

私が銀行員として25年間、多くの会社を見てきて、強いと思った会社にはある特徴がありました。

 

利益が多いだけではありません。借入が少ないだけでもありません。

 

何か起きてもすぐには困らない会社でした。

 

売上が落ちても、しばらく考える時間がある。設備が壊れても、すぐに修理できる。

 

良い投資案件があれば、検討できる。取引先の入金が遅れても、慌てない。

 

その余裕を作っていたのが、手元資金です。そして、その手元資金を守るために、上手に銀行借入を使っている会社がありました。

 

借入を嫌わない。しかし、借り過ぎもしない。

 

必要な時に、必要な金額を、必要な期間だけ使う。

 

これが、私が銀行員時代に見た「借入を上手に使う会社」でした。

 

私がこの話を伝えたい理由

銀行員として長く働く中で、私は何度も経営者と銀行の認識の違いを感じました。

 

経営者は、「借金を増やさない方が会社は安全だ。」と考えます。

 

銀行は、「手元資金が少なすぎる方が心配だ。」と考えることがあります。

 

経営者は、「現金があるから設備を現金で買おう。」と考えます。

 

銀行は、「設備を買った後の預金は大丈夫だろうか。」と考えます。

 

どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

私はこの違いを、銀行員時代に何度も見てきました。だから今は、「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行が何を見ているのかを経営者に分かりやすく伝えています。

 

目的は、借入を増やすことではありません。融資を受けることでもありません。

 

経営者が、現金で払うのか。借りるのか。どれだけ現金を残すのか。自分で考え、自信を持って判断できるようになることです。

 

それが財務だと思っています。

 

まとめ|設備投資では「払えるか」ではなく「払った後」を考える

社長、その設備投資は本当に現金で払いますか。私は、「借入をしてください。」と言いたいわけではありません。現金で払った方が合理的なケースもあります。借入を利用した方が良いケースもあります。

 

重要なのは、「現金があるから払う」という理由だけで決めないことです。

 

設備投資をする前に、一度確認してください。

 
  • 設備代金を払った後、預金はいくら残るのか
  • 半年後の資金繰りはどうなるのか
  • 税金や賞与の支払いは大丈夫か
  • 売上が予定どおり増えなくても耐えられるか
  • 次の投資機会が来ても動けるか
 

銀行員として25年間、多くの会社を見てきて強く感じることがあります。借入が少ない会社が、必ずしも強い会社ではありません。本当に強いのは、必要な時に必要な資金を使いながら、会社に十分な現金を残し、経営の選択肢を持っている会社です。

 

借入は、会社を苦しめるものにもなります。一方で、使い方によっては、会社の現金を守り、成長する時間をつくり、次のチャンスをつかむための道具にもなります。

 

経営者は借金を見ています。銀行は返済力と手元資金を見ています。どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

設備投資を考える時には、「いくらで買えるか。」だけではなく、「この投資をした後も、社長が安心して経営判断できる会社でいられるか。」そこまで考えてみてください。

 

銀行の見方を知ることは、借入を増やすためではありません。

 

会社のお金をどう使うかについて、経営者自身がより良い判断をするためなのです。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

TEL:0586-48-5507 

FAX:0586-64-6644 

mail:info@ooishi-kaikei.com

 

コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。