2026.08.14 (金)

銀行員時代、私が本当に困った社長の特徴

業績が悪い会社ではありません。「相談できない会社」でした。

 

銀行員として25年間、多くの経営者とお会いしてきました。

 

黒字の会社。赤字の会社。創業したばかりの会社。何十年も地域で愛されている会社。本当にさまざまな企業を担当させていただきました。

 

その中で、時々こんな質問を受けます。

 

「銀行はどんな会社を嫌うのですか。」

 

この質問に対して、私はいつも少し考えます。

 

なぜなら、銀行員時代、私が本当に困った会社は、赤字の会社ではなかったからです。

 

業績が悪いことは、経営をしていれば誰にでもあります。景気の影響もあります。取引先の事情もあります。設備投資をすれば、一時的に利益が減ることもあります。それ自体は決して珍しいことではありません。

 

私が本当に困ったのは、会社の状況が見えない経営者でした。

 

今日は、その話をしたいと思います。

   

困ったのは「赤字」ではなく「突然の相談」

銀行員時代、ある日突然こんな電話が入ることがありました。

 

「来週の支払いができそうにありません。」

「急ぎで融資をお願いしたいです。」

 

もちろん銀行としても真剣に対応します。でも、その時に思うのです。

 

「もう少し早く相談していただければ…」

 
  • 売上が落ち始めた時
  • 大口取引先の動きが変わった時
  • 設備投資を考え始めた時
 

その段階で相談があれば、一緒に考えられることがたくさんあります。

 

ところが、何も情報がないまま、資金が底をついてから相談を受けると、選択肢は大きく減ってしまいます。

 

銀行は困っている会社を助けたくないのではありません。時間が足りないことに困るのです。

 

「大丈夫です」が一番心配だった

銀行担当者が訪問すると、「順調です。」「問題ありません。」そう答えてくださる社長がいました。

 

ところが決算書を見ると、

 

利益は大きく減っています。

預金も減っています。

売掛金も増えています。

 

「何かありましたか。」そう聞くと、「実は…」と初めて話が始まります。

 

銀行員時代、一番不安だった言葉は、「大丈夫です。」でした。

 

本当に順調な会社は、順調な理由を説明できます。少し苦しい会社も、何が課題なのかを説明できます。

 

何も話が出てこない会社ほど、状況が分からず困りました。

   

「銀行には迷惑をかけたくない」という社長

真面目な社長ほど、こうおっしゃいます。

 

「銀行には心配をかけたくなかった。」

「良くなってから相談しようと思っていました。」

 

その気持ちはよく分かります。

 

でも銀行員だった私は、むしろ逆でした。悪くなってから初めて聞く方が、ずっと心配になります。

 

例えば、売上が少し落ちています。でも原因は分かっています。改善策もあります。

 

そんな話を早めに聞いていれば、銀行としても安心できます。

 

銀行は、完璧な会社を求めているわけではありません。

 

状況を共有してくれる会社を理解したいのです。

 

印象に残っている二人の社長

今でも忘れられない二人の経営者がいます。

 

一人は、毎月のように銀行へ来られました。融資の相談ではありません。

 

「今月は少し売上が落ちました。」

「新しい設備を考えています。」

「人を採用しようと思っています。」

 

そんな話です。

 

その会社も、ある年、一時的に資金繰りが厳しくなりました。

 

でも銀行としては、背景を知っています。事前に相談も受けています。だから必要な支援を考えることができました。

 

もう一人の社長は、数年間ほとんどお会いしませんでした。

 

そしてある日、「資金がなくなりました。」と相談に来られました。

 

状況を確認すると、売上は一年以上前から減少していました。取引先も減っていました。設備も老朽化していました。

 

でも銀行は何も知りませんでした。

 

銀行が困ったのではありません。

 

もっと早く知っていれば、一緒に考えられたかもしれない。そのことが残念だったのです。

 

銀行は「失敗しない会社」を探していない

経営をしていれば、失敗もあります。景気も変わります。取引先も変わります。

 

銀行員だった私も、それは十分理解しています。

 

だから、赤字になった会社が困るのではありません。売上が減った会社が困るのでもありません。

 

私が困ったのは、何も分からない会社です。

 
  • 何を考えているのか
  • どんな対策をしているのか
  • 今後どうするのか
 

それが見えないと、銀行も判断ができません。

 

「税理士に任せています」だけでは分からない

もちろん税理士の先生は、経営者にとって大切な存在です。私も多くの税理士の先生方と仕事をしてきました。

 

しかし銀行面談で、「税理士に任せています。」だけで終わってしまうと、銀行としては少し物足りません。

 

銀行が知りたいのは、税理士の考えだけではありません。社長自身がどう考えているかです。

 
  • 利益が減った理由をどう受け止めているのか
  • 設備投資をなぜ決めたのか
  • これから会社をどうしていきたいのか
 

その考えを聞きたいのです。

 

困った社長には共通点があった

25年間を振り返ると、私が困った社長には共通点がありました。

 
  • 悪い情報ほど隠してしまう
  • 相談するタイミングが遅い
  • 数字を見ようとしない
  • 銀行はお金を借りる時だけ行く場所だと思っている
  • 会社の状況を自分の言葉で説明できない
 

反対に、銀行との関係が良かった会社には、こんな共通点がありました。

 
  • 良い話も悪い話も共有する
  • 早めに相談する
  • 分からないことは素直に聞く
  • 数字を理解しようとする
  • 銀行を経営の相談相手として活用している
 

この違いは、決算書には表れません。

 

でも、会社の未来には大きく影響していました。

 

私が銀行を辞めた理由

銀行員として25年間、私は本当に多くの経営者を見てきました。

 

真面目な社長ほど、一人で抱え込んでいました。

 

銀行には迷惑をかけたくない。

社員には心配をかけたくない。

家族にも相談できない。

 

その結果、誰にも相談できない。そんな社長を何人も見てきました。

 

一方で銀行も、「もっと早く相談していただければ。」と思っていました。

 

どちらも会社を守りたい。どちらも真剣です。でも、見ている景色が違う。

 

私はそのすれ違いを25年間、何度も見てきました。だから銀行を辞めました。

 

銀行を否定したかったわけではありません。

 

銀行の考え方を経営者に翻訳したい。

 

経営者が銀行を怖がるのではなく、安心して相談できる存在だと知ってほしい。

 

そして、社長が一人で悩まなくていい環境をつくりたい。

 

それが今の私の使命です。

 

まとめ

銀行員時代、私が本当に困った社長は、赤字の社長ではありませんでした。

 

一人で抱え込み、相談できない社長でした。

 

銀行が困るのは、

 
  • 業績が悪いことではない
  • 赤字になることでもない
  • 借入が増えることでもない
 

本当に困るのは、会社の状況が見えなくなることです。

 

だから私は経営者の皆さんにお伝えしたいのです。

 

銀行は、「助けを求めた会社」を嫌うことはありません。むしろ、「早めに相談してくれた会社」と一緒に考えたいと思っています。

 

もし今、少しでも経営に不安があるのであれば、一人で抱え込まずに相談してください。

 

税理士でも、金融機関でも、信頼できる専門家でも構いません。

 

社長が安心して悩める環境をつくること。

 

それが会社を守る第一歩なのだと、私は25年間の銀行員生活を通して強く感じています。

 
 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。