2026.09.04 (金)

「今は借りなくていい」は本当に正解?銀行員25年が教える「借りられる時」と「借りたい時」の違い

「今はお金に困っていないので、借入は必要ありません。」

 

銀行員時代、経営者から何度も聞いた言葉です。

 

その考え方は、決して間違っていません。必要のない借入を増やせば、利息も発生します。毎月の返済も増えます。借入は少ない方がいい。できれば自己資金で経営したい。そう考える社長が多いのもよく分かります。

 

ただ、銀行員として25年間、たくさんの会社の資金調達を見てきた私は、この言葉を聞くたびにもう一つ考えていました。

 

「本当に必要になった時にも、今と同じ条件で借りられるだろうか。」

 

ということです。

 

少し不思議に聞こえるかもしれません。

 

お金に困っていない時には、銀行から「借りませんか」と言われる。ところが、本当にお金が必要になった時には、銀行の審査が慎重になる。銀行と長く付き合っていると、こうした場面があります。

 

経営者からすると、「必要な時に貸してくれるのが銀行ではないのか。」と思うでしょう。

 

銀行からすると、「返済できる時に融資したい。」と考えます。

 

どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

今回は、銀行員として25年間働いて感じた、「借りられる時」と「借りたい時」は必ずしも同じではないという話をしたいと思います。

   

銀行から「借りませんか」と言われる時

業績が良い会社には、銀行から融資提案が来ることがあります。

 

「設備投資の予定はありませんか。」

「運転資金はいかがでしょうか。」

「今なら融資をご検討できます。」

 

そんな話をされた経験がある社長もいるでしょう。

 

その時、会社の預金口座を見ると十分な現金がある。売上も順調。利益も出ている。

 

すると社長は当然思います。

 

「今はいらないな。」

 

私も、その判断自体がおかしいとは思いません。

 

問題は、「今いらない」ことと「これからもいらない」ことを同じにしてしまうことです。

 

銀行が融資を提案するのには理由があります。

 

業績が安定している。返済力がある。財務内容が良い。預金にも余裕がある。

 

つまり、銀行から見て「貸しやすい状態」だから声がかかっているということです。

 

これは経営者にとって、一つの選択肢を持っている状態でもあります。

 

お金が必要になる時は、会社に何か起きている時でもある

では、会社が本当にお金を必要とするのはどんな時でしょうか。

 

大きな設備投資をする。新しい店舗を出す。人材を採用する。こうした前向きな資金需要もあります。

 

一方で、売上が急に落ちた。大口取引先からの入金が遅れた。原材料価格が上がった。予定外の修繕が必要になった。赤字が続いた。そんな時にも資金が必要になります。

 

ここで重要なのは、お金が必要になった原因そのものが、銀行の融資判断に影響する可能性があるということです。

 

例えば、

 

預金3,000万円。

毎年安定して利益が出ている。

借入返済も順調。

 

そんな時に1,000万円の融資相談があったとします。銀行としては比較的検討しやすいでしょう。

 

ところが一年後、

 

赤字が続いている。

預金が300万円まで減っている。

借入返済も重くなっている。

 

そこで、「資金が足りないので1,000万円貸してください。」と言われたらどうでしょう。

 

同じ会社。同じ1,000万円。

 

それでも銀行から見える景色はまったく違います。

 

これが、「借りられる時」と「借りたい時」の違いです。

   

銀行は「困っているから貸す」仕事ではない

少し冷たく聞こえるかもしれません。

 

しかし、銀行の仕組みを理解するうえで大切なので、あえてお伝えします。

 

銀行は、困っている会社から順番にお金を貸す仕事ではありません。

 

預金者から預かった大切なお金を融資し、返済していただくことで成り立っています。

 

ですから融資をする時には、「この会社は返済できるだろうか。」を必ず考えます。

 

経営者は、「困っているから借りたい。」

 

銀行は、「返せる状態だから貸したい。」

 

ここに認識のズレがあります。銀行員時代、このズレを何度も見てきました。

 

経営者からすれば、「業績が良い時に借りろと言われても、お金はいらない。」その通りです。

 

銀行からすれば、「業績が良い今だから融資を検討しやすい。」これも、その通りなのです。

 

「お金がなくなったら借りればいい」が危険な理由

私は経営者の方から、「預金が減ってきたら、その時に銀行へ相談します。」と言われることがありました。

 

そのたびに、少し心配になりました。

 

なぜなら、預金が減っているということは、何らかの原因があるからです。

 

利益が出ていない。売掛金の回収が遅れている。設備投資をした。在庫が増えている。借入返済が大きい。

 

その原因によっては、銀行の評価も以前とは変わっている可能性があります。

 

だから、「お金がなくなったら借りる」では遅い場合があります。

 

資金調達は、お金がなくなる前に考える。これが非常に大切です。

 

銀行員時代に印象に残った二人の社長

 

銀行員時代に見てきたケースをもとに、二人の社長を例に考えてみます。

 

A社の社長は、借入を嫌う方でした。

 

業績は順調。利益も出ています。預金も十分ありました。銀行から運転資金の提案をしても、「今は必要ないから。」と断られていました。

 

もちろん、それだけなら問題ありません。

 

ところがその後、主要取引先との取引が急に縮小しました。売上が減ります。利益も落ちます。預金も徐々に減っていきました。それでも社長は、「まだ大丈夫。」と銀行には相談しませんでした。

 

そして、本当に資金が厳しくなってから融資の相談に来られました。

 

銀行側では、以前とは状況が違います。赤字の原因。今後の改善策。資金繰り。返済可能性。さまざまな確認が必要になります。

 

社長からすると、「前は銀行から借りてほしいと言っていたのに。」と思います。その気持ちはよく分かります。

 

しかし銀行からすると、会社の状態が変わっています。

 

一方、B社の社長は違いました。業績が良い時にも銀行と話をしていました。

 

「今すぐ必要ではないけれど、来年設備投資をするかもしれない。」

「今後人を増やしたい。」

「売上が増えれば運転資金も必要になる。」

 

そんな話を普段からされていました。

 

実際に資金需要が出た時も、銀行は背景を知っています。会社の方向性も理解しています。だから相談が早い。

 

資料の準備もできます。資金調達の選択肢も考えられます。

 

この二社の違いは、単純に「借りたか、借りなかったか」ではありません。

 

必要になる前から、資金調達を経営の一部として考えていたかどうか。そこに大きな違いがありました。

 

借りられるなら何でも借りればいい、という話ではありません

ここは誤解してほしくありません。

 

私は、「銀行が貸してくれるなら、とにかく借りましょう。」と言っているわけではありません。

 

借入には当然、利息がかかります。返済も必要です。過剰な借入は会社の財務を悪化させます。

 

大切なのは、借りる・借りないを、その時の預金残高だけで決めないことです。

 

これから設備投資があるのか。売上が増える可能性があるのか。その場合、運転資金はいくら必要になるのか。取引先の入金が遅れた場合どうするのか。今後、金利が上がった場合どうするのか。

 

一年後、二年後の会社を考えながら、必要な資金を考える。

 

借入は、「今お金が足りないからするもの」だけではありません。

 

将来の選択肢を確保するための経営手段でもあります。

 

現金を持つことにはコストがある。でも価値もある

例えば、銀行から2,000万円を借りて、そのお金の大部分が預金として残っているとします。

 

経営者からすると、「使わないお金に利息を払うのはもったいない。」と思うでしょう。その考え方も正しいです。

 

だからこそ、借入金利と必要な手元資金のバランスを考える必要があります。

 

ただ私は、現金を持っていることによる価値も考えてほしいと思っています。

 

突然、良い物件が出た。機械を安く買える話が来た。優秀な人材を採用できることになった。大口取引先から大型案件を受注した。

 

そんな時、現金があればすぐに動けます。

 

現金がなければ、まず銀行へ相談するところから始まります。そして銀行の審査を待つことになります。

 

チャンスは、銀行の審査が終わるまで待ってくれるとは限りません。

 

だから私は、現金を単なる「余っているお金」とは考えていません。

 

現金は、会社の選択肢です。

 

現金がある会社は「断ること」もできる

銀行員25年の中で、もう一つ感じたことがあります。

 

現金がある会社は、仕事を選ぶことができます。

 

利益率の低い仕事。条件の悪い取引。支払いサイトが極端に長い取引先。本当は受けたくない仕事。

 

資金繰りが厳しい会社は、「売上が必要だから。」と受けざるを得ないことがあります。

 

一方、現金に余裕がある会社は、「その条件では受けません。」と言える。

 

これは経営にとって、とても大きな強さです。

 

資金があるということは、支払いができるだけではありません。

 

経営者が自分で選べるということなのです。

 

銀行が見ている「余力」

銀行は会社を見る時、現在の利益だけを見ているわけではありません。

 

何かあった時に耐えられるか。そこも見ています。

 

例えば、預金残高。借入返済額。自己資本。キャッシュフロー。そして、追加で資金調達できる余力。

 

会社に余力があれば、多少業績が落ちても立て直す時間があります。

 

逆に、常にギリギリまで借り、預金もほとんどない状態では、少しの変化で経営が不安定になります。

 

だから銀行員だった私は、借入残高だけではなく、会社にどれくらい余白があるかを見ていました。

 

銀行との付き合いは「借りる時」だけでは遅い

ここで、ぜひ経営者の方にお伝えしたいことがあります。

 

資金調達を考えていない時こそ、銀行と話をしてください。

 

「今期はこんな状況です。」

「来年こんな設備投資を考えています。」

「今後、新しい事業を考えています。」

 

それだけでも構いません。

 

融資の申込書を持っていく必要はありません。

 

会社の未来を共有しておくのです。

 

そうすれば銀行も、「それならこの時期に資金が必要になりそうですね。」「この制度が使えるかもしれません。」「今のうちにこういう資料を準備しておきましょう。」と考えることができます。

 

銀行との付き合い方で、資金調達は大きく変わります。

 

融資は、申込日だけで決まっているわけではありません。

 

その前の関係づくりも非常に大切なのです。

 

私が独立後、信用金庫を回った理由もここにある

私は銀行を25年勤めた後、独立しました。

 

そして独立後、早い段階から地域の信用金庫など金融機関を訪問しました。

 

営業をするためではありません。

 

これから私が支援する経営者のために、金融機関とのネットワークを作っておきたかったからです。

 

銀行員時代、良い会社なのに金融機関との接点が少なく、資金調達の選択肢が限られている会社を見てきました。

 

反対に、普段から複数の金融機関と良い関係を築き、必要な時に相談できる会社もありました。

 

会社にとって、相談できる金融機関がある。これは一つの財産です。

 

資金調達は、必要になった瞬間にゼロから作るものではありません。

 

日頃から少しずつ準備しておくものなのです。

 

「借金は悪いもの」という思い込み

真面目な経営者ほど、借入を嫌う傾向があります。

 

「借金はできるだけ早く返したい。」

「無借金経営にしたい。」

 

その気持ちは理解できます。

 

実際、借入が少なければ利息負担も小さくなります。ただ、借金を減らすことだけが経営の目的になってしまうと、判断を誤ることがあります。

 

例えば、3,000万円の預金がある。借入が2,000万円ある。

 

そこで、「借金が嫌だから。」と2,000万円を一括返済したとします。借入はゼロになります。気持ちはすっきりするでしょう。

 

しかし、預金は1,000万円になります。

 

その翌月に、1,500万円の設備故障が起きたらどうでしょう。

 

もう一度銀行に相談することになります。

 

その時に、以前と同じ条件で借りられる保証はありません。

 

だから私は、借入残高だけを見るのではなく、借入と現金をセットで見ることが大切だと思っています。

 

経営者は「借金」を見る。銀行は「返済力と手元資金」を見る

この違いは、銀行員時代に何度も感じました。

 

経営者は、「借入が3,000万円もある。」と考えます。

 

銀行は、「借入は3,000万円あるが、預金も2,500万円あり、年間1,000万円のキャッシュフローがある。」という見方をします。

 

経営者は借金という金額を見ます。

 

銀行は、その借金を支える会社全体の力を見ています。

 

どちらも間違っていません。ただ、見ている景色が違うのです。

 

この銀行の見方を知るだけでも、借入に対する考え方は少し変わるのではないでしょうか。

 

「借りられる時」と「借りたい時」が同じとは限らない

私が今回、一番お伝えしたいのはここです。

 

会社経営では、借りたい時に、必ず借りられるとは限りません。

 

そして逆に、借りられる時には、それほど借りたいと思わないことがあります。だから難しいのです。

 

重要なのは、「銀行が貸してくれるなら借りる」でもなく、「お金がなくなったら借りる」でもありません。

 

会社の将来を見ながら、必要な資金を先回りして考えることです。

 

半年後。一年後。三年後。

 

どんな投資をするのか。どんなリスクがあるのか。

 

その時、会社にどれだけ現金が必要なのか。

 

そこから資金調達を考える。

 

これは財務の話であると同時に、経営そのものの話です。

 

私が銀行の外からこの話を伝える理由

銀行員として25年間、真面目に頑張っている経営者をたくさん見てきました。

 

そして、何度も同じすれ違いを見てきました。

 

経営者は、「今はお金に困っていないから銀行に相談する必要はない。」と思っています。

 

銀行は、「今の状態ならいろいろな提案ができるのに。」と思っています。

 

そして数年後、本当に資金が必要になった時に、経営者は言います。

 

「前は借りてくださいと言っていたのに、なぜ今は難しいのですか。」

 

銀行側にも理由があります。経営者側にも言い分があります。どちらが悪いわけでもありません。ただ、お互いが見ている景色を知らないのです。

 

私は銀行員時代、その間にある大きな溝を何度も感じました。だから今、「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として活動しています。

 

融資を受けるためのテクニックを教えたいわけではありません。

 

銀行が何を見ているのか。なぜ銀行はその質問をするのか。なぜ今なら貸せて、後になると難しくなることがあるのか。その仕組みを知っていただきたいのです。

 

銀行の見方が分かれば、経営者は金融機関に振り回されるのではなく、自分で資金調達を考えられるようになります。

 

まとめ|お金に困っていない時こそ、資金調達を考える

「今は借りなくていいかな。」

 

そう思える状態は、実は会社にとって良い状態なのかもしれません。

 

だからこそ、その時に一度考えてみてください。

 

今後、設備投資はないか。

人を増やす予定はないか。

売上が増えた時、運転資金は足りるか。

大口取引先からの入金が遅れても大丈夫か。

半年間売上が落ちても耐えられるか。

何かあった時、相談できる銀行はあるか。

 

そのうえで、「今は借りない。」と判断するのであれば、それでいいのです。

 

大切なのは、何となく借りないことではありません。考えたうえで、借りないと判断することです。

 

そして必要であれば、会社に余力がある時に資金を確保しておく。

 

借入は悪ではありません。借り過ぎも良くありません。会社にとって必要な資金を、必要になる前から考えておく。それが財務です。

 

銀行員として25年間、多くの会社を見てきて、私は強く感じています。

 

資金調達で一番苦しくなるのは、「お金がないこと」だけではありません。

 

「お金が必要になった時に、選択肢がないこと」です。

 

現金があれば、待つことができます。投資することができます。断ることができます。挑戦することもできます。そして、相談できる銀行があれば、さらに選択肢は増えます。

 

銀行との付き合いは、お金が必要になってから始めるものではありません。

 

資金調達も、預金がなくなってから考えるものではありません。

 

会社に余裕がある時こそ、次に何が起きても経営者が自信を持って判断できるよう、資金の準備をしておく。それが、私が銀行員25年を通じて感じた、「借りられる時」と「借りたい時」の違いなのです。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。