2026.07.10 (金)

銀行は決算書のどこから見ているのか

先日、ある経営者の方からこんな質問を受けました。

 

「銀行って決算書のどこを見ているんですか?」

 

融資や資金繰りの相談を受けていると、よく聞かれる質問です。

 

経営者の方からすると、

 

売上が増えている。

利益も出ている。

税金も払っている。

 

だから銀行からの評価も良いはずだ。

 

そう考えるのは自然なことかもしれません。

 

しかし、銀行が決算書を見る視点は少し違います。

 

私自身、銀行員として25年間、法人融資や企業審査の仕事に携わってきました。決算書を見る機会は数え切れません。

 

その中で感じたのは、経営者が気にしているポイント銀行が見ているポイントには意外と大きな違いがあるということです。

 

今回は、銀行が決算書のどこを見ているのか、そしてその背景にどのような考え方があるのかについてお話したいと思います。

   

決算書は「過去の成績表」ではなく「未来を考える資料」

まず前提として知っておいていただきたいことがあります。

 

決算書は過去の数字です。

 

昨年の売上。

昨年の利益。

昨年の財務状況。

 

しかし、銀行は過去を知るためだけに決算書を見ているわけではありません。

 

銀行が本当に知りたいのは、「この会社はこれからどうなるのか」です。

 

融資は返済まで何年も続きます。設備資金なら7年、10年ということもあります。

 

つまり銀行は、「今返せるか」ではなく、「将来も返し続けられるか」を見ています。

 

その判断材料として決算書を分析しているのです。

 

だからこそ、売上が高いか、利益が出ているかだけでなく、現金は十分にあるか会社の体力はあるか、経営者はどんな判断をしているかまで見ています。

 

銀行が最初に見るのは現預金

意外かもしれませんが、私が銀行員時代に決算書を見るとき、最初に確認していたのは利益ではありませんでした。

 

貸借対照表の現預金です。

 

なぜなら、返済は利益ではなく現金で行うからです。

 

例えば、次の二つの会社があったとします。

 

A社

  • 経常利益 1,000万円
  • 現預金 1億円
 

B社

  • 経常利益 2,000万円
  • 現預金 500万円
 

利益だけを見るとB社の方が優秀に見えます。

 

しかし、銀行員としてはA社の方に安心感を持つことがあります。

 

なぜなら、会社経営では何が起こるか分からないからです。

 

取引先の倒産、大型クレーム、急な設備故障、景気悪化。

 

そうした時に会社を支えるのは利益ではなく現金です。

 

実際に銀行員時代、利益は出ているのに資金繰りに苦しむ会社を何社も見てきました。

 

ある製造業の会社は売上も利益も順調でした。

 

しかし、売上拡大に伴い売掛金が増加。さらに設備投資も続いていました。

 

決算書だけ見ると好調企業です。

 

ところが実際には、毎月資金繰りに追われていました。

 

反対に、利益はそれほど大きくなくても現預金を厚く持っている会社は、銀行としても安心して融資しやすい傾向があります。

 

銀行は利益よりも先に資金繰りを見ていると言っても過言ではありません。

 
 

利益の金額よりも利益の「質」を見る

経営者の中には、「黒字だから銀行評価も高いはず」と思われる方もいます。

 

もちろん黒字は大切です。

 

しかし銀行は、利益額だけを見ているわけではありません。

 

利益の中身を見ています。

 

例えば、

 

本業は赤字。

土地売却で黒字。

保険解約で黒字。

補助金収入で黒字。

 

というケースがあります。

 

決算書上は黒字です。

 

しかし銀行は、「来年も同じ利益が出るのだろうか」と考えます。

 

一方で、派手な利益ではないものの、毎年安定して利益を出している会社があります。

 

銀行はこうした会社を高く評価する傾向があります。

 

なぜなら、融資返済は一度だけではないからです。

 

重要なのは継続性です。

 

銀行員時代、本部審査からよく聞かれたのは、「この利益は再現性がありますか」という質問でした。

 

つまり、今年だけの利益なのか、来年以降も続く利益なのかを見ているのです。

 

自己資本は会社の体力を表している

銀行が必ず確認する項目の一つが自己資本です。

 

自己資本とは、これまで積み上げてきた利益の蓄積です。

 

私はよく経営者に、「自己資本は会社の筋肉みたいなものです」とお話します。

 

筋肉がある人は多少の負荷がかかっても耐えられます。会社も同じです。

 

自己資本が厚い会社は、景気悪化、売上減少、一時的な赤字、設備投資にも耐えやすくなります。

 

実際にコロナ禍でも差が出ました。

 

同じ業種、同じ規模、同じくらい売上が落ちた会社でも、自己資本が厚い会社は比較的落ち着いていました。

 

一方で、自己資本が薄い会社は資金繰りに苦しみました。

 

銀行は自己資本を見ることで、「この会社はどれくらいの逆風に耐えられるか」を判断しています。

 

借入金が多いことは必ずしも悪くない

経営者の中には、「借金が多いから銀行評価が悪いのでは」と考える方もいます。

 

しかし銀行は、借入金の金額だけで判断していません。

 

例えば、

 
  • 借入金3億円
  • 現預金1億円
  • 利益もしっかり出ている
 

という会社があります。

 

一方で、

 
  • 借入金3,000万円
  • 現預金300万円
  • 利益も少ない
 

という会社もあります。

 

どちらが安心かと言われると、一概には言えません。

 

重要なのは返済能力です。

 

銀行は借入残高ではなく、返済できる力を見ています。

 

だから借入が多いこと自体を過度に恐れる必要はありません。

 

銀行は数字を通じて社長を見ている

ここが意外と知られていないポイントです。

 

銀行は決算書を見ています。

 

しかし、本当に見ているのは数字だけではありません。

 

数字の裏側にある経営者の判断です。

 

例えば、

 
  • 利益が出ているのに現金が減っている。
  • 在庫が急増している。
  • 役員貸付金が増えている。
 

こうした数字を見ると、銀行員は「なぜだろう」と考えます。

 

設備投資をしたのか。

事業拡大を進めているのか。

資金管理に問題があるのか。

 

決算書には社長の考え方が表れています。

 

銀行員時代、同じ業種で同じ規模の会社でも、決算書を見ると経営者の違いがよく分かりました。

 

利益を積み上げる社長。

現金を重視する社長。

積極投資をする社長。

借入を嫌う社長。

 

決算書は経営者の通知表でもあるのです。

 

銀行員時代に印象に残った二つの会社

今でも印象に残っている二つの会社があります。

 

どちらも売上規模はほぼ同じでした。

 

A社は派手さはありません。

 

しかし、毎月試算表を作成し、資金繰りも把握していました。

 

利益もそこそこ。現預金も十分。設備投資も計画的でした。

 

銀行としては安心感があります。

 

一方のB社は、売上も利益もA社を上回っていました。

 

しかし、現預金は少ない。試算表は半年遅れ。資金繰り表もない。

 

社長に質問すると、「なんとかなると思う」という回答でした。

 

決算書だけ見ると、B社の方が良く見える部分もあります。

 

しかし、銀行として安心できたのはA社でした。

 

銀行が見ているのは数字だけではありません。

 

数字の管理状況経営者の姿勢も含めて見ているのです。

 

経営者が決算書を見るときのおすすめ視点

経営者が決算書を見るときは、売上、利益だけで終わらせないことをおすすめします。

 

ぜひ次の4つも確認してみてください。

 
  • 現預金は増えているか
  • 自己資本は積み上がっているか
  • 借入返済は無理なくできているか
  • 資金繰りに余裕はあるか
 

この視点を持つだけでも決算書の見え方は大きく変わります。

 

まとめ

銀行は決算書を見るとき、利益だけを見ているわけではありません

 

現預金。

利益の質。

自己資本。

返済能力。

そして経営者の判断。

 

こうした点を総合的に見ています。

 

そして最終的に知りたいのは、「この会社はこれからどうなるのか」です。

 

決算書は税金計算のためだけの書類ではありません。

 

会社の健康状態経営判断の結果が詰まった資料です。

 

もし銀行との付き合い方に悩んでいるのであれば、一度「銀行はどう見ているか」という視点で決算書を眺めてみると、新しい発見があるかもしれません。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。