2025.09.19 (金)
【知らぬ間に「最重要ターゲット」に?】AIとオンライン照会で強化される税務調査 無申告者が直面するリスクと是正への道筋

目次
納税者が社会の一員として、自ら所得を計算し申告・納税する「申告納税制度」の下、適正に税金を納めている納税者にとって、無申告行為は強い不公平感をもたらします。このため、国税庁は無申告者に対して的確かつ厳格な対応を講じる必要性を強調しており、彼らは税務調査における「最重要ターゲット」とされています。特に令和5事務年度においては、所得税及び消費税の調査等における追徴税額の総額が過去最高を記録しており、その背景にはAI活用や情報収集の高度化があります。今回は、無申告者が直面する厳しい現実と、そこから是正への道筋を探ります。
税務調査の「今」:AIとオンライン照会が変える調査の様相
国税庁は、効率的な調査を行うためにAI(人工知能)を積極的に活用しており、申告漏れが疑われる事案の選定に役立てています。これにより、所得税の追徴税額の総額は令和5事務年度で1,398億円と過去最高を記録しました。これは、AIが過去の調査事績から申告誤りの傾向を分析し、税務リスクが高いと判断される申告書データを効率的に抽出している結果と言えるでしょう。
また、情報収集の面では、金融機関の預貯金情報をオンラインで迅速かつ広範囲に取得できる「預貯金等情報のオンライン照会制度」が令和3年10月から本格運用され、その対応金融機関は制度開始当初の37行から令和6年度には431行にまで増加しています。この制度導入後、照会件数は飛躍的に増加し、令和3年度の28万件から令和6年度には835万件に達しました。実際の税務調査の現場でも、調査官が事前に社長やその家族の事業外口座まで照会にかけ、内容を指摘してくるケースもあると指摘されています。これは、課税庁側が迅速かつ広範囲に情報を取得できる環境が整備されていることを意味します。
無申告者に対しては、このような情報収集の高度化に加え、納税者宅等に臨場して行う「実地調査」だけでなく、文書や電話による連絡や来署依頼による面接といった「簡易な接触」も活用され、積極的に調査が実施されています。
無申告者が直面する厳しい現実
無申告者が税務調査の対象となった場合、その影響は甚大です。
• 所得税無申告者への調査
令和5事務年度において、所得税の無申告者に対して5,274件の実地調査(特別・一般調査)が実施されました。この調査による1件当たりの申告漏れ所得金額は2,590万円であり、所得税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たりの平均1,370万円に比べ、約1.9倍も高額になっています。追徴税額についても、1件当たり417万円と、実地調査(特別・一般)全体の平均275万円の約1.5倍に上り、その総額は220億円に達しています。
• 消費税無申告者への調査
消費税の無申告者に対する調査は特に厳しさを増しており、令和5事務年度には7,827件の実地調査(特別・一般調査)が実施されました。消費税無申告者への追徴税額の総額は過去最高の214億円を記録し、1件当たりの追徴税額も274万円と過去最高を更新しています。
これは消費税の実地調査(特別・一般)全体の1件当たり平均158万円と比較して約1.7倍にもなります。会社に利益が出ていない赤字法人であっても消費税や源泉所得税について調査されることがあるため、油断は禁物です。また、消費税の還付申告者への調査も厳格化しており、還付申告をする際には必ず税務調査が入ると考えておくべきでしょう。
• 重いペナルティと長期化する影響
税務調査で不適切な経理処理や脱税が明らかになった場合、過去3年間分の申告内容だけでなく、税務署員が脱税の事実を確認した場合は、調査の対象期間が最大で過去7年間分まで延長される可能性があります。また、追徴課税に加え、過少申告加算税や無申告加算税、そして悪質性が高いと判断されれば重加算税が課されます。重加算税が課されると、追加で納める税額に35%または40%が加算され、結果的に税金が約1.8倍になるとも言われています。
最悪の場合、脱税として刑事罰を受けるおそれもあります。 さらに、反面調査として取引先等にも税務調査が入る可能性があり、それによって取引先との関係悪化や信頼低下につながるリスクもはらんでいます。

是正への道筋と賢い対応策
このような厳しい状況を避けるためには、自発的かつ適正な申告・納税が大前提です。しかし、もし既に無申告の状態であったり、税務調査が実施されることになったりした場合には、以下の点に注意し、賢く対応することが不可欠です。
• 事実と解釈の切り分けと慎重な言葉選び
税務調査官は、納税者の言葉尻を捉え、意図的な隠蔽(重加算税の対象)があったと認定しようとすることがあります。例えば、領収書や出納帳などの資料がない際に「破棄した」と答えると「意図して捨てた、隠した」とみなされる可能性がありますが、「紛失した」と答えれば重加算税にはならないと指摘されています。また、「100%」「絶対」といった断定的な言葉は避け、「そう認識しています」「事実」は一つでも「解釈」は無数にあるという考え方に基づきます。
• 調査官への印象管理と初動対応
税務調査は「最初の10分で勝負が決まる」とも言われています。調査官の信頼を得るためには、服装や部屋をきれいに整えることが重要です。特に、税務調査の冒頭に行われる事業概況に関する質問には、聞かれたら即答できるよう、事前に準備しておくことが肝要です。即答することで、調査官に「正直者である」という良い印象を与え、その後の調査がスムーズに進む可能性が高まります。また、言われたことに対しては最小限に回答するという姿勢も大切です。
• 専門家である税理士の活用
税務調査において、税理士の存在は不可欠です。税理士に依頼する最大のメリットは、追徴課税を回避または最小限に抑えられる可能性が高まることです。税理士は税法に基づき経費の妥当性を論理的に説明し、税務署との協議・交渉を代行することで、納税者の精神的ストレスを大幅に軽減できます。 経験豊富な税理士は、税務署員がチェックするポイントや想定される質問事項を把握しており、これらを踏まえた入念な準備やリハーサルを行うことで、税務調査を円滑に進めることができます。無申告や期限後申告にも対応可能であり、限られた時間の中でも適切な準備と対策を施して調査に臨むことが可能です。

まとめ
国税庁のAI活用やオンライン照会制度の拡大により、税務調査は年々効率化・深度化しており、無申告者はこれまで以上に厳しい調査に直面する時代となりました。無申告行為は、納税者全体の公平性を損なうため、的確かつ厳格な対応がとられます。 もし、申告に不安がある方や既に無申告の状態である方は、事態が悪化する前に、速やかに税理士などの専門家に相談し、適切な申告・是正への道筋を立てることが最も賢明な選択と言えるでしょう。税務調査は、プロの知識と経験を借りることで、そのリスクを大きく軽減できるのです。
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