2025.12.26 (金)
AI時代の税務調査——電子帳簿保存法、インボイス制度導入で何が変わるのか〜「紙のチェック」から「データ分析」へ。調査の現場で今、起きている変化〜
目次
ここ数年、経理現場は激動の時代を迎えています。「電子帳簿保存法」の改正による電子取引データの保存義務化、そして「インボイス制度」の導入による請求書管理の厳格化。 多くの企業が「法対応」に追われてきましたが、ふと立ち止まって考えてみてください。
「なぜ国は、ここまで急ピッチで経理のデジタル化を進めているのか?」
その答えの一つは、税務行政のDX(デジタルトランスフォーメーション)にあります。 企業がデジタル化するということは、それをチェックする税務署側もデジタルでチェックできるようになる、ということです。
これからの税務調査は、調査官がパラパラと紙をめくる牧歌的なスタイルから、AI(人工知能)とビッグデータを駆使した「ピンポイントで誤りを指摘する」スタイルへと変貌を遂げつつあります。
本コラムでは、AI時代の税務調査がどのように行われるのか、そして事業者はどう備えるべきかについて、最新の制度改正を絡めて解説します。
税務署の「武器」が進化している——KSKシステムとAI解析
税務調査の変化を知るには、まず税務署が持っている「武器」を知る必要があります。
国税総合管理(KSK)システムの高度化
国税庁には、全国の納税者の申告内容、納税履歴、法定調書などの情報を一元管理する巨大なデータベース「KSK(Kokuzei Sogo Kanri)システム」が存在します。 これまでは、このデータを人間(調査官)が経験と勘で分析し、「この会社は怪しい」と調査対象を選定していました。
しかし現在は、ここにAI(人工知能)による分析が導入されています。 過去の膨大な調査事績をAIに学習させ、「不正をする企業の決算書の特徴」や「申告漏れがありそうな業種・規模のパターン」を自動的に抽出します。これにより、調査官の個人の勘に頼らず、「行けば必ず何かが出る(修正申告につながる)」可能性が高い企業を、高精度でリストアップできるようになっているのです。
「無作為抽出」から「狙い撃ち」へ
かつては「長年調査が来ていないから、そろそろ来るだろう(定期調査)」という選定もありました。しかし、AI時代の調査はより効率性を重視します。 「売上が横ばいなのに、特定の経費だけが異常値を示している」「同業他社と比較して利益率が極端に低い」——こうした異常値(アノマリー)をAIが瞬時に検知し、それが調査選定の決定打となります。
電子帳簿保存法が変える「調査の現場」
電子帳簿保存法の改正(特に電子取引データの保存義務化)は、税務調査のスタイルを根本から変えつつあります。
「段ボール箱」から「ノートPC」へ
従来の調査では、過去3年分の請求書や領収書が詰まった段ボール箱を会議室に積み上げ、調査官がそれを一枚一枚めくって確認していました。 しかし、Amazonや楽天などのECサイト利用、メール添付のPDF請求書などが主流となった今、見るべきは「紙」ではなく「データ」です。
今後の調査では、調査官からこう言われるケースが増えるでしょう。 「この期間の電子取引データを、CSV形式で提出してください」 「特定の取引先とのやり取りを、検索して画面に表示してください」
データの「改ざん」は即座にバレる
電子データには、作成日時や更新日時などの「メタデータ」や、訂正削除の履歴が残ります。「調査が決まったから慌てて数字を直した」という痕跡は、デジタル・フォレンジック(鑑識)技術を使えば容易に発覚します。紙の領収書を差し替えるよりも、電子データの改ざんは痕跡が残りやすいため、絶対に避けるべきです。

インボイス制度が生む「クロスチェック」の網
2023年10月から始まったインボイス制度(適格請求書等保存方式)も、税務署にとっては強力な調査ツールとなります。
登録番号による「照合」の自動化
インボイス制度導入により、請求書には「Tから始まる13桁の登録番号」が記載されるようになりました。これにより、税務署は以下のクロスチェック(反面調査)を容易に行えるようになります。
- 買い手(支払う側): 「A社に消費税込みで110万円支払った(仕入税額控除)」と申告。
- 売り手(受け取る側): A社は消費税を正しく納税しているか?
これまでは社名や住所の表記ゆれがあり、データの紐付け(マッチング)に手間がかかりましたが、登録番号というユニークIDが付与されたことで、「買い手の申告」と「売り手の申告」の不整合をシステム上で瞬時に発見できるようになります。
「免税事業者(インボイス未登録)へ支払ったのに、誤って全額を仕入税額控除していた」というミスは、システム照合で一発で指摘される代表的な項目になるでしょう。
複数税率(8%・10%)の誤り
軽減税率(8%)と標準税率(10%)の区分経理も、引き続き重要な調査ポイントです。 特に、飲食料品を扱う業種や、会議費(飲食)と交際費(贈答)が混在するケースなどでは、AIによるトレンド分析で「標準税率の割合が同業他社より不自然に低い」といった傾向が出れば、重点調査の対象となります。
これからの「デジタル証憑管理」はどうあるべきか
AI選定、電子データ保存、インボイス照合。これら税務行政のDXに対抗するために、事業者はどのような準備をすべきでしょうか? キーワードは「守りのデジタル化」です。
「保存」するだけでなく「管理」する
電子帳簿保存法対応で、「とりあえずPDFをフォルダに入れているだけ」という状態は危険です。 「日付・金額・取引先」でファイル名を統一する、あるいはインデックス(索引)簿を作成するなどして、「いつでも、誰でも、すぐに取り出せる」状態にしておくことが、調査時の最大の防御になります。整理整頓されたデータを見せることができれば、調査官に対し「しっかり管理している会社だ(不正の余地が少ない)」という心証を与え、調査の早期終了につながります。
会計ソフトと証憑の自動連携
人力で入力を行っていると、インボイス番号の入力ミスや、税率の選択ミスが必ず起きます。 クラウド会計ソフトや経費精算システムを活用し、領収書をスキャン(OCR読み取り)して自動仕訳を行う仕組みを構築しましょう。最近のソフトは、読み取ったインボイス番号が国税庁のデータベースに存在するかを自動判定する機能も備えています。こうしたデジタルツールを活用することで、ヒューマンエラーによる「うっかり脱税」を防ぐことができます。
月次決算での「異常値チェック」
税務署のAIが異常値を検知するなら、会社側も事前にそれを察知しておくべきです。 毎月の月次決算において、前年同月比での増減や、粗利益率の変動をモニタリングしましょう。「なぜ今月は交際費が急増したのか?」「なぜ原価率が下がったのか?」その理由を経営者自身が説明できるようにしておくことが、AI選定に対する唯一の対抗策です。
まとめ:デジタル対応は「会社を守る」ための投資
「AI時代の税務調査」と聞くと、何か恐ろしい監視社会のように感じるかもしれません。 しかし、見方を変えれば、正しく経理処理を行っている企業にとっては、過度な負担が減る(怪しい企業に調査のリソースが割かれるため)というメリットもあります。
重要なのは、制度改正を「面倒な事務作業の増加」と捉えるのではなく、「経理の透明性を高め、税務リスクを減らすチャンス」と捉えることです。
- 電子データは検索可能な状態で整理・保存する。
- インボイスの登録確認・税率チェックをシステム化する。
- 自社の決算数値を分析し、異常値の理由を把握しておく。
これら「デジタル証憑管理」を徹底することは、税務調査対策になるだけでなく、自社の経営状態をリアルタイムに把握する「強い経営基盤」を作ることにも直結します。
AIやデータ分析が進化しても、最終的に判断し、説明するのは「人」です。 「うちはデジタル対応が遅れているかも……」「今の保存方法で調査に耐えられるか不安だ」と感じる経営者様は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。 最新の法制度とITツールに精通した税理士が、貴社の経理体制を「AI時代仕様」にアップデートするお手伝いをいたします。

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