2026.04.13 (月)

AI時代の会社経営⑤“数字に強い会社”がさらに強くなる理由

はじめに

スタートアップサポート税理士法人のコラムでは、これまで「AI導入は業務の棚卸しから始める」「一般企業がAI導入で失敗しないための進め方」「AI活用で失敗しない会社は社内ルールを整えている」「AI時代の会社経営で社長に求められる役割」など、AIと経営をテーマにした記事が続いています。本稿はその流れを受けた第5回として、AI時代に強い会社とは、結局どんな会社なのかを、税理士の視点から整理したいと思います。

 

生成AIの話題が広がる中で、「うちの会社もAIを使ったほうがよいのではないか」と考える経営者の方は増えています。実際、IPAの「DX動向2025」でも、生成AIは業務効率化や生産性向上だけでなく、付加価値向上にも寄与すると整理されています。

一方で、日本では企業規模が小さくなるほど取組みが弱くなり、100人以下の企業では「関心はあるが予定はない」「今後も取組む予定はない」の合計が8割近くに達するとされています。中小企業にとって、AIは無関係な話ではなく、まさにこれから向き合うべき経営課題です。

 

ただ、ここで大切なのは、AIを導入しただけで会社が強くなるわけではないということです。AIは文章作成、要約、比較、整理、アイデア出しといった作業を速くしてくれます。しかし、会社経営で本当に差がつくのは、情報を集めることではなく、その情報をどう読み、どう判断し、どう行動に結びつけるかです。つまり、AI時代に最後にものを言うのは、やはり「数字を見る力」です。

 

第1章:AIが普及しても、経営の本質は変わらない

AIが得意なのは、たくさんの情報を短時間で整理し、たたき台をつくることです。会議の要点をまとめる、報告書の下書きをつくる、複数案を比較する、そうした作業では、今後ますます役に立つ場面が増えるでしょう。けれども、どの事業に資金を回すか、どこで採用するか、値上げをするか、借入をするかといった判断は、会社ごとの事情を踏まえて行う必要があります。

 

たとえば、AIに「利益を増やすにはどうすればよいか」と聞けば、それらしい答えは返ってきます。しかし、その会社にとって本当に必要なのが値上げなのか、商品構成の見直しなのか、固定費の圧縮なのか、あるいは資金繰り改善なのかは、自社の数字を見なければ判断できません。AIは一般論を示すことはできますが、自社の現場と数字に基づいた最終判断まではしてくれません。

 

経営において重要なのは、「情報を持っていること」よりも「判断できること」です。AIが普及するほど、資料を作る力そのものの差は小さくなっていきます。だからこそ、これからは同じ数字を見ても、次の一手を打てる会社と打てない会社の差が、より大きくなっていくはずです。

 

第2章:“数字に強い会社”とは、経理が細かい会社ではない

ここでいう「数字に強い会社」とは、会計用語に詳しい会社、あるいは経理資料が分厚い会社のことではありません。そうではなく、数字を経営判断に使える会社のことです。

 

たとえば、毎月の試算表を早めに確認し、売上だけでなく粗利も見ている会社。利益だけでなく、預金残高や今後の資金繰りも意識している会社。前年と比べるだけでなく、当初の計画と比べて、何が良くて何が悪いのかを考えられる会社。そうした会社は、数字を「結果の報告」としてではなく、「次の判断の材料」として使えています。

 

逆に、数字に弱い会社は、「売上は増えているから大丈夫」「忙しいからうまくいっているはず」と感覚で判断しがちです。ところが実際には、売上が増えていても粗利率が下がっていることがあります。利益が出ていても、納税や借入返済のタイミングで資金繰りが急に苦しくなることもあります。受注が増えても、人件費や外注費が膨らみ、思ったほど利益が残らないケースも珍しくありません。

 

つまり、数字に強い会社とは、数字を細かく見る会社ではなく、数字の変化から経営の実態をつかめる会社です。AI時代に必要なのも、まさにこの力です。

 
 

第3章:AI時代に“数字に強い会社”がさらに強くなる3つの理由

第一に、作業スピードの差が縮まり、判断の差が利益の差になるからです。
これまでは、会議資料を作る、報告書をまとめる、情報を集めるだけでも多くの時間がかかっていました。しかしAIの普及によって、その部分の効率は大きく上がります。すると差がつくのは、資料をつくる速さよりも、その資料をどう使うかです。数字に強い会社は、AIで作業時間を短縮し、その分だけ判断と改善に時間を使えます。一方で、数字を見る習慣がない会社は、AIで資料が増えても、結局は活かしきれません。

 

第二に、AIは“それらしい答え”を返せても、自社に合った正解は数字が教えてくれるからです。
IPAの「DX動向2025」でも、日本企業では生成AIの活用が個人利用や試験利用にとどまりやすく、業務プロセスへの組込みはまだ十分進んでいないことが示されています。また、活用上の課題として、「生成AIの効果やリスクに関する理解不足」「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」「誤った回答を信じて業務に利用してしまう」といった点が挙げられています。だからこそ、AIの出力をそのまま信じるのではなく、自社の数字と整合しているかを確認する姿勢が欠かせません。

 

第三に、AI活用が進むほど、社内ルールと確認体制が経営の土台になるからです。
経済産業省などが公表している「AI事業者ガイドライン」は、2026年3月31日に第1.2版へ更新され、チェックリストやワークシートも公表されています。また、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威として「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が第3位に初選出されました。AIを便利に使うだけでなく、入力する情報、出力内容の確認、権限管理、情報漏えい対策をどう整えるかが、経営課題になっているということです。

 

第4章:経営者が最低限押さえたい5つの数字

では、AI時代の中小企業経営で、最低限どの数字を見ればよいのでしょうか。難しく考えすぎる必要はありません。まずは次の5つです。

 

一つ目は、売上高です。
これは会社の規模や勢いを見る基本の数字です。ただし、売上だけでは経営の良し悪しは判断できません。売上が伸びていても、残るお金が減っているケースは十分にあります。

 

二つ目は、粗利額と粗利率です。
何をどれだけ売ったか以上に、どれだけ利益の源泉が残っているかが重要です。値引きが増えた、仕入価格が上がった、外注比率が高まった。こうした変化は、売上だけ見ていても気づけません。経営判断では、売上よりも先に粗利を見るくらいでちょうどよい場面もあります。

 

三つ目は、固定費です。
人件費、家賃、リース料、システム利用料など、毎月ある程度固定で出ていくお金です。固定費が重い会社は、売上が少し下がっただけでも利益が急に悪化します。逆に、固定費の構造が分かっていれば、どこまで売上が落ちても耐えられるかを考えやすくなります。

 

四つ目は、営業利益または月次の利益です。
本業でどれだけ利益が出ているのかを見る数字です。大切なのは、年に1回まとめて見るのではなく、毎月確認することです。単月で悪いのか、累計で崩れているのかによって、打つべき手は変わります。

 

五つ目は、預金残高と資金繰り見通しです。
利益が出ていても、お金が足りなくなる会社はあります。納税、賞与、借入返済、設備投資が重なると、帳簿上の利益と現金の動きは大きくずれます。会社を守るという意味では、利益管理と同じくらい資金繰り管理が重要です。

 

まずは、この5つを毎月同じタイミングで確認することです。前月比、前年同月比、計画比が見られるようになると、経営は感覚ではなく管理に変わっていきます。

 

まとめ

AI時代の会社経営では、作業の速さだけでは差がつきにくくなります。これから本当に差がつくのは、数字を読んで判断できるかどうかです。生成AIを活用する会社ほど、売上、粗利、固定費、利益、資金繰りを押さえ、毎月の数字を経営に使うことが重要になります。

 

AIを使うこと自体が目的ではありません。
AIを使いながら、数字で経営できる会社になること。
それこそが、AI時代に強い会社の条件ではないでしょうか。

 
 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

スタートアップサポート税理士法人代表者。
総合病院の勤務医のような存在よりも、個々の企業にとってのホームドクターのような存在でありたいと考えております。
日々の細かい会計処理のことから資金繰りや雇用、助成金、企業経営者にとって何でも気軽に相談できる良きパートナーとして専門的知識を生かしていきたい所存です。