2026.04.17 (金)
相続税の税務調査では通帳をどこまで見られる?
目次
名義預金・高額支出の原資・不動産売却代金の行方まで税理士が解説
相続税の税務調査というと、不動産の評価や遺産分割の内容を思い浮かべる方が多いかもしれません。もちろん、それらも大切な確認事項です。
しかし、実務上、特に注意したいのが亡くなられた方の預貯金の動きです。
相続税は、土地や建物だけではなく、現金、預貯金、有価証券など、金銭に見積もることができる財産に原則としてかかります。国税庁のタックスアンサーでも、相続税の対象となる財産として現金や預貯金が示されています。また、国税庁が公表した令和6事務年度の資料では、相続税の実地調査は9,512件、簡易な接触は21,969件とされており、相続税申告後も内容確認が継続的に行われていることが分かります。
預貯金が重要視されるのは、通帳や取引明細により、いつ、いくら入金され、いつ、どこへ出金されたかを比較的追いやすいからです。相続税の調査では、預金残高だけを見て終わるわけではありません。むしろ、残高に至るまでの流れ、すなわちお金がどのように動いたかが重視されやすいのです。税務大学校論叢でも、相続開始前の預貯金口座からの高額な引出しについて、その使途の解明が相続税実務上の重要論点になると整理されています。なお、税務大学校論叢は研究資料であり法令や通達そのものではありませんが、実務上の論点を知る資料として参考になります。
なぜ相続税の税務調査では預貯金の動きが重視されるのか
預貯金は、不動産のように評価額の算定から入る財産とは異なり、金額そのものが把握しやすい財産です。さらに、資金移動の履歴が残りやすいため、相続人間の資金移動や、家族名義口座への振替、定期預金の解約、現金での引き出しなども確認しやすい特徴があります。
たとえば、相続開始の前後に多額の出金がある場合、税務署としては「何に使われたのか」「まだどこかに残っていないか」「家族へ移っていないか」といった点を確認したくなります。これは特別に疑っているというより、相続税の対象となる財産を正しく把握するうえで、自然な確認項目といえます。
そのため、相続税申告では、残高証明書を集めるだけでなく、大きなお金の動きに説明が付く状態にしておくことが大切です。
名義預金は相続税調査で特に問題になりやすい
相続税の場面でよく出てくるのが、いわゆる名義預金です。
これは、口座名義は配偶者や子、孫などになっていても、実際には亡くなられた方が資金を出し、管理していた預金を指します。
国税庁の「相続税の申告書作成時の誤りやすい事例集」では、被相続人以外の名義の定期預金であっても、被相続人がその資金を拠出し、管理・運用していて、贈与を受けた事実がない場合には、名義にかかわらず相続税の課税対象になり得ると明記されています。つまり、相続税では「誰の名前の口座か」だけではなく、誰がそのお金を出したのか、誰が管理していたのか、本人が自由に使えたのかという実質が見られます。
ご家族としては、「子ども名義にしてあるから相続財産ではない」と思ってしまいがちです。けれども、通帳や印鑑を亡くなられた方が保管していた、子ども本人は預金の存在をよく知らなかった、贈与契約書もなく自由に使える状態でもなかったという事情があれば、相続税上は被相続人の財産と判断される可能性があります。
この点は、申告漏れになりやすい典型例の一つです。相続税申告の前に、家族名義の口座がある場合は、その原資や管理状況まで確認しておくことが大切です。

親族が高額なものを購入していた場合、その原資も見られやすい
相続税の税務調査では、預貯金残高だけではなく、そのお金が何に使われたのかも重要です。
そのため、親族が高額な買い物をしていた場合、その購入資金の出どころが問題になることがあります。
たとえば、高級車、宝飾品、投資商品、まとまった頭金を伴う不動産購入、高額なリフォーム費用などがある場合です。もちろん、親族ご本人の収入や資産から購入していれば、それ自体が問題になるわけではありません。
しかし、実際には亡くなられた方の預金から支払われていた、あるいは亡くなられた方が実質的に負担していたとなると、相続税上は見過ごせない論点になります。
国税庁の誤りやすい事例が示す考え方は一貫しており、名義や形式よりも資金拠出の実態を重視するというものです。この考え方からすると、購入した財産の名義が親族であっても、その原資が被相続人の財産であれば、税務上の確認対象になり得ると考えるのが自然です。ここは法令上の明文というより、国税庁が示す名義預金の考え方から導かれる実務上の注意点です。
特に、購入額が大きいにもかかわらず、購入者側にそれを賄うだけの収入や蓄積が見当たらない場合には、申告前に一度整理しておいた方が安心です。誰が支払ったのか、どの口座から出金されたのか、贈与なのか、貸付けなのか、それとも単なる立替なのか。こうした点を曖昧なままにしておくと、後で説明が難しくなります。
不動産売却などで多額の収入があった場合、その使われ方も重要
もう一つ見落としやすいのが、多額の入金があった後のお金の行方です。
代表例は不動産の売却代金です。そのほかにも、生命保険金、満期保険金、事業上の回収金、株式等の売却代金など、相続開始前にまとまった資金が入っていることは珍しくありません。
こうした多額の入金が確認できるにもかかわらず、相続開始時点の財産一覧にその痕跡がほとんど見当たらない場合、税務上はその使途が気になるところです。
- 口座に残っているのか。
- 現金で保管していたのか。
- 親族へ渡していたのか。
- 別の資産の購入に充てたのか。
- あるいは借入金の返済や医療・介護費用などに使われたのか。
こうした点が整理されていないと、相続税申告後の確認や調査の際に説明を求められやすくなります。
税務大学校論叢でも、相続開始前の高額出金について、その使途の解明や、使途が判明した支出を控除したうえで差額を検討する考え方が紹介されています。これも研究資料ではありますが、入金の存在だけでなく、その後にどう使われたかが重要になるという実務感覚を裏付けています。
不動産売却があった場合は、売買契約書や入金記録を残すだけで終わりにせず、その後の資金移動まで確認しておくことが大切です。売却代金がどこへ入金され、その後どこへ動いたのかが整理できていれば、相続税申告の精度も上がります。
相続直前の大口出金は、使途を説明できることが大切
亡くなられる直前に多額の出金がある場合、相続人の方としては「生活費や医療費で使った」「施設への支払いがあった」と認識していることも多いと思います。実際、そのような正当な支出は珍しくありません。
ただし、税務上大切なのは、その説明を資料に基づいてできるかどうかです。
請求書や領収書、振込記録、施設利用料の明細、修繕費の見積書などが残っていれば、後から確認を受けた際にも説明しやすくなります。反対に、「たぶんこれに使ったと思う」「現金で手元に置いていたはず」といった曖昧な説明では、どうしても不安が残ります。
相続税は、財産を隠していないかを争うというより、申告内容が資料と整合しているかを確認する手続でもあります。ですから、相続開始前後の大口出金については、早い段階で税理士と一緒に確認しておくことをおすすめします。
相続税申告の前に整理しておきたい資料
相続税の税務調査に備えるために、何か特別な対策が必要というわけではありません。
大切なのは、資金の流れを後から説明できるようにしておくことです。
具体的には、次のような資料を整理しておくと安心です。
- 預金通帳、取引明細、定期預金証書
- 相続開始前後の大口入出金のメモ
- 家族名義口座への送金記録
- 不動産売買契約書、売却代金の入金記録
- 高額品の請求書、領収書、契約書
- 贈与契約書や贈与税申告書
- 医療費、介護費、施設費用などの支払資料
こうした資料がそろっていれば、申告の段階で論点を整理しやすくなりますし、万が一その後に内容確認があった場合も、落ち着いて対応しやすくなります。
まとめ|相続税では「財産の残高」だけでなく「お金の流れ」を見ておくことが重要です。
相続税の税務調査では、不動産の評価だけでなく、亡くなられた方の預貯金の動きが重要な確認対象になります。
特に注意したいのは、名義預金、相続直前の大口出金、親族による高額購入の原資、不動産売却代金など多額収入の使途です。これらは、いずれも「そのお金が誰のもので、どこへ動き、何に使われたのか」という共通の視点で整理できます。 相続税申告で本当に大切なのは、財産の一覧を作ることだけではありません。
そのお金が、いつ、どこへ、なぜ動いたのかを説明できる状態にしておくことです。申告前の段階で資金の流れまで丁寧に確認しておくことで、不要な不安や後日のトラブルを減らしやすくなります。
当事務所では、相続税申告だけでなく、申告前の財産確認、預貯金の流れの整理、名義預金の検討、税務調査を見据えた事前点検まで対応しております。
相続税についてご不安がございましたら、どうぞお早めにご相談ください。

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。
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