2026.02.20 (金)

業績の良い会社の共通点⑦商品・サービスが2つの視点以上で作りこまれている。「良いモノを作れば売れる」は間違いだが、「顧客の言う通り」はもっと危険? ~中小企業が陥る「プロダクトアウト・マーケットイン」の罠~

   

はじめに:自信作が「在庫の山」になる理由

「うちの技術で、これ以上ない最高品質のものを作った。使ってもらえば絶対に良さがわかるはずだ

そう信じて世に送り出した自信作が、驚くほど売れない。 展示会に出しても素通りされ、Webサイトからの問い合わせも鳴らない。そして、倉庫には「最高品質の在庫」だけが積み上がっていく……。

 

これは、ものづくり企業や専門サービス業の経営現場で、あまりにも頻繁に目にする光景です。 なぜ、このような悲劇が起きるのでしょうか。 多くのコンサルタントやビジネス書はこう言います。 「それは、あなたが『プロダクトアウト(作り手目線)』で作っているからです。『マーケットイン(顧客目線)』に切り替えなさい」と。

 

確かに、その指摘は一理あります。しかし、ここに大きな落とし穴があります。 素直な経営者がこの助言を真に受けて、徹底的に顧客の声を聞き、市場のニーズに合わせた商品を作った結果、どうなるか。 今度は「特徴のない、どこにでもある商品」が出来上がり、大手企業との血で血を洗う「価格競争」に巻き込まれて疲弊してしまうのです。

 

自分のこだわり(プロダクトアウト)」を貫けば売れない

顧客の声(マーケットイン)」を聞けば儲からない

 

では、中小企業はどうすればいいのでしょうか。 本稿では、この二項対立のジレンマを解き明かし、資本力のない中小企業がニッチトップとして生き残るための「第3の戦略」について解説します。

 

第1章:言葉の呪縛~中小企業にとっての「定義」を再考する~

戦略を立てる前に、まずは敵(言葉の定義)を知る必要があります。教科書的な意味と、現場で起きている「誤解」を整理しましょう。

 

プロダクトアウト(Product Out)の光と影

一般的に「会社側の論理で作ること」「ひとりよがり」というネガティブな意味で使われがちです。 しかし、iPhoneを生み出したスティーブ・ジョブズがそうであったように、世の中にない革新的な製品はすべからく「プロダクトアウト」から生まれています。

 
  • 強み: 圧倒的な差別化、模倣困難な独自性、作り手の情熱。
  • 弱点(罠): 市場(買い手)が存在しないリスク。「高性能だが誰も使いこなせない機械」「こだわりすぎて高すぎるラーメン」などが典型です。
 

マーケットイン(Market In)の残酷な真実

「顧客の要望を聞き、売れるものを作る」。一見、正解のように聞こえます。 しかし、中小企業にとって、純粋なマーケットインは「死への道」になりかねません。なぜでしょうか。

 

顧客に「どんなものが欲しいですか?」と聞けば、返ってくる答えは常に同じです。 「もっと安く」「もっと早く」「もっと便利に」。 これらは「顕在化したニーズ」であり、すでに市場にはライバルがひしめいています。 この要望にすべて応えようとすれば、規模の経済(大量生産・大量仕入れ)が働く大手企業が圧倒的に有利です。資金力のない中小企業が、真正面からマーケットインで戦おうとすると、待っているのは「下請け化」か「薄利多売」の地獄です。

 

つまり、中小企業にとっては、 「プロダクトアウト(独りよがり)もダメだが、安易なマーケットイン(御用聞き)もダメ」 という、非常に狭い一本道を歩むことが求められるのです。

 

第2章:中小企業の勝ち筋は「偏愛」×「課題解決」のハイブリッド

では、その狭い一本道(勝ち筋)とは何か。 それは、「プロダクトアウトを起点にしつつ、出口だけマーケットインに調整する」というハイブリッド戦略です。

 

「作りたい」というエゴを捨ててはいけない

中小企業の最大の経営資源は、社長や社員の「熱量」です。 「これが作りたい」「この技術を突き詰めたい」という偏愛にも似た情熱(プロダクトアウト)は、エンジンの役割を果たします。これを捨てて、ただ売れるからという理由で「タピオカ屋」を始めても、ブームが去れば終わりです。 まずは、「自分たちが何を作れるか(Can)」「何を作りたいか(Will)」を大切にしてください。そこが出発点です。

 

「たった一人」の強烈なファンを探す

出発点はプロダクトアウトで良いですが、そのまま市場に出してはいけません。 ここでマーケットインの思考を使います。ただし、「みんな」の声を聞くのではありません。 あなたのそのマニアックなこだわりや技術を、「喉から手が出るほど欲しがっているたった一人」が世界のどこかにいないか、必死で探すのです。

 

事例:ある金属加工工場の挑戦

  • プロダクトアウト(技術): 0.001ミリ単位の超精密な切削ができるが、コストが高い。
  • 一般的なマーケットイン(失敗): 「普通のネジを安く作って」という要望に応え、赤字になる。
  • ハイブリッド戦略(成功): 「0.001ミリのズレで何億円もの損害が出る人」を探した。→「航空宇宙産業」や「F1のエンジン開発者」にターゲットを絞った。
  • 結果: 「高くてもいいから、君のところじゃなきゃダメだ」と言われる高収益体質へ。
 

このように、自社の「尖った技術(プロダクト)」と、特定の顧客の「深い悩み(マーケット)」がパチっとハマる接点を探すこと。 これが、中小企業における正しい商品開発です。

 
 

第3章:失敗を防ぐための「3つの自問自答」

開発の方向性が決まったら、実際に動き出す前に以下の3つの質問を自社に投げかけてください。このフィルターを通すことで、失敗の確率をグッと下げることができます。

 

Q1. 「誰の」ための商品か?(Who)

ターゲットの設定において、「30代男性」や「製造業全般」といった広すぎる定義はNGです。 中小企業の商品開発では、「具体的な顔が思い浮かぶレベル」まで絞り込む必要があります。

 

「○○市の郊外に住んでいて、週末にキャンプに行くのが唯一の楽しみだが、既存のテントの設営の面倒さにストレスを感じているAさん」 ここまで解像度を高めて初めて、「Aさんなら、ここにお金を払うはずだ」「逆に、この機能はAさんには不要だ」という取捨選択(コストダウン)が可能になります。 「誰にでも売れるもの」は、結局「誰にも刺さらないもの」になります。

 

Q2. 顧客の「声」ではなく「行動」を見ているか?

これは非常に危険な罠です。 アンケートやヒアリングで「こんな機能があったら欲しいですか?」と聞けば、顧客は100%「欲しい」と答えます。なぜなら、答えるのはタダだからです。 しかし、いざ商品化して「3万円です」と提示すると、「いや、今はいいや」と断られます。

 

見るべきは、言葉ではなく「行動(事実)」です。 「その悩みを解決するために、今、何かにお金を払っていますか? 何か代替品を使っていますか?」 もし、顧客がその悩みを放置している(お金も手間もかけていない)なら、それは「あったらいいな(Nice to have)」レベルの悩みであり、「なくてはならない(Must have)」悩みではありません。 中小企業が狙うべきは、顧客がすでに何かしらの痛みを抱え、お金を使ってでも解決したがっている領域です。

 

Q3. 「高単価」でも納得されるストーリーがあるか?

財務的な視点ですが、これが最も重要です。 中小企業は、生産効率では大手に勝てません。つまり、原価はどうしても高くなります。 したがって、「安さ」以外の理由で選ばれ、高い利益率を確保できる価格設定が必須条件となります。

 

「素材がすごいから高い」という機能的価値だけでは、価格競争に巻き込まれます。 「開発者がなぜこれを作ったのか」「これを使うことで顧客の未来がどう変わるのか」という情緒的価値(ストーリー)が付加されて初めて、顧客は「高いけれど、あなたから買いたい」と言ってくれます。 値決めは経営です。開発段階から「いくらで売るか」「利益率は何%か」をシミュレーションしていない商品は、趣味の工作と同じです。

 

第4章:開発は「投資」。撤退ラインを決める勇気

どんなに周到に準備しても、ビジネスに「絶対」はありません。 新商品・新サービスの開発は、企業にとって「投資」です。投資である以上、うまくいかなかった時の「損切り(撤退)」のルールを決めておく必要があります。

社長の思い入れが強いプロダクトアウト型の商品ほど、「あと少し宣伝すれば売れるはずだ」「改良すればきっと…」と、ズルズルと赤字を垂れ流してしまいがちです。

 
  • 「開発費として○○万円までは使うが、それ以上はかけない」
  • 「リリース後、半年で販売数○○個に達しなければ撤退またはピボット(路線変更)する」
 

こうした「撤退ライン」をあらかじめ冷徹に設定しておくことは、会社の屋台骨を守るために不可欠な経営判断です。情熱はアクセルですが、数字というブレーキがない車は事故を起こします。

 

おわりに:情熱(右脳)と計算(左脳)のバランス

「良いモノを作れば売れる」 この言葉は、半分間違いですが、半分は真実です。 正確には、「良いモノ(情熱のこもった独自製品)を、それを必要とする特定の相手(市場)に、適切な価格と伝え方で届ければ、爆発的に売れる」のです。

 

私たち税理士法人もまた、多くの経営者様の挑戦を支援してきました。 成功する企業の共通点は、社長の中に「絶対にこれをやりたい!」という熱い想い(プロダクトアウト)があり、同時に「どうすれば利益が出るか」という冷徹な計算(マーケットイン・財務視点)が共存していることです。

 

もし今、あなたが 「技術には自信があるのに、なぜか利益が出ない」 「新しいアイデアはあるが、商売として成り立つか不安だ」 とお悩みであれば、ぜひ一度ご相談ください。

 

あなたの情熱を、市場で勝てる「戦略」へ、そして会社の未来を支える「利益」へと変換するためのサポートをさせていただきます。 「作りたいもの」で、胸を張って稼ぐ。そんな経営をご一緒に実現しましょう。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

スタートアップサポート税理士法人代表者。
総合病院の勤務医のような存在よりも、個々の企業にとってのホームドクターのような存在でありたいと考えております。
日々の細かい会計処理のことから資金繰りや雇用、助成金、企業経営者にとって何でも気軽に相談できる良きパートナーとして専門的知識を生かしていきたい所存です。