2025.12.19 (金)
調査で“指摘されやすい経費”ランキング——業種別の傾向を解説~「旅費交通費・交際費・車両費」の曖昧さをどうクリアするか~
目次
「税務調査で何を見られるのか?」 これは、多くの経営者が抱く最大の懸念事項でしょう。
国税庁が公表する「税務行政の現状と課題」や毎年の事績を見ると、税務調査において指摘される事項には明確なトレンドがあります。それは、複雑な国際税務や特殊な組織再編スキームなどではありません。もっと身近で、どの企業にも存在する「経費の計上ルール」が、最も多くの指摘を受けているのです。
特に中小企業の調査において、調査官が目を光らせるのは「公私混同」です。つまり、「それは本当に会社の事業に必要な経費ですか? 社長個人の支出ではありませんか?」という点です。
本コラムでは、税務調査で特に指摘されやすい経費をランキング形式(頻出度順)で紹介し、特に判断が難しい「旅費交通費」「交際費」「車両費」について、業種別の傾向と対策を徹底解説します。
なぜ税務署は「その経費」を疑うのか?
具体的な費目の解説に入る前に、調査官の心理(ロジック)を知っておきましょう。彼らが経費を見る際の視点は、シンプルに以下の2点に集約されます。
- 事業関連性(Business Purpose) その支出が、会社の売上獲得のために直接的・間接的に貢献しているか。
- 実在性と証憑(Substantiation) その取引は事実か。それを証明する書類(領収書、契約書、議事録等)は揃っているか。
この2点が曖昧になりやすいのが、これから紹介する「指摘されやすい経費」たちです。これらは「経費にできるか、できないか」の線引きがグレーになりがちで、だからこそ調査の主戦場となるのです。
税務調査で指摘されやすい経費ランキング
実務的な感覚値に基づき、中小企業の調査で議論になりやすい経費を「指摘されやすい順」に整理しました。
【第3位】家事関連費(地代家賃・水道光熱費・通信費) ~「なんとなく」の按分は通じない~
自宅兼事務所(SOHO)や、個人事業主から法人成りした会社で頻出する論点です。自宅の一部を事務所として使っている場合、家賃や光熱費の一部を経費にすることができますが、この「割合(按分率)」が問題になります。
- よくある指摘パターン
・「事業で使っているから」と、根拠なく家賃の50%〜60%を経費に入れている。
・休日や夜間の使用が中心である自宅の電気代を、全額経費にしている。
・個人のスマホ代や自宅のインターネット代を、100%法人経費にしている。
- 対策のポイント: 税務署が求めるのは「合理的かつ明確な基準」です。
・家賃: 間取り図を用意し、事業専用スペースの床面積の割合で計算する。
・通信費・光熱費: 使用時間やコンセントの数など、客観的に説明できる指標を持つ。
「とりあえず半分」は最も危険です。「なぜ30%なのか」を問われた際に、「床面積が全体の30%だからです」と即答できれば、調査官はそれ以上追及できません。
【第2位】旅費交通費・車両費 ~「家族旅行」や「高級車」の落とし穴~
金額が大きくなりがちで、かつ私的利用が疑われやすいのがこの分野です。
1.車両費(高級外車など)
社長が乗る高級外車(ベンツ、ポルシェ等)は、必ずと言っていいほどチェックされます。「社長の個人的な趣味ではないか?」という疑いです。
- よくある指摘パターン
・イタリア製の2ドアスポーツカーなど、明らかに送迎や営業に適さない車種。
・社長の配偶者が主に使用している車(買い物や送迎用)の経費計上。
・休日の高速道路利用履歴(ETC)やガソリン代が多い。
- 対策のポイント
「運転日報(運行記録簿)」の作成が最強の防具です。「いつ、どこへ、誰と、何の目的で」行ったかを記録していれば、事業利用の事実は揺らぎません。
2.旅費交通費(出張)
出張費もグレーゾーンが多い項目です。
- よくある指摘パターン
・「視察」名目の海外旅行や沖縄・北海道への旅行。
・出張日程の中に、ゴルフや観光の日が含まれている(その分は経費否認されます)。
・家族同伴の出張(家族分の旅費は当然経費になりません)。
- 対策のポイント
「出張報告書」を残すこと。「どこに行って何を見たか」だけでなく、「誰と会い、どんな商談をしたか」という成果レポートが必要です。現地のパンフレットや名刺を添付するのも有効です。
【第1位】交際費(接待交際費)~「誰と」「何のために」が最大の争点~
不動の第1位はやはり交際費です。税法上、中小企業は年間800万円まで(または飲食費の50%)を損金にできますが、枠内なら何でも良いわけではありません。
- よくある指摘パターン
・相手不明: 領収書に相手先の名前がメモされていない。
・社内飲食: 役員だけの会議費や、身内だけの慰労会を交際費にしている。
・個人的支出: 家族との食事、友人との飲み会、自宅近所での頻繁な飲食。
・高額な贈答品: 商品券や金券を購入し、使途(誰に渡したか)のリストがない(裏金作りを疑われます)。
- 対策のポイント
領収書の裏、または会計ソフトの摘要欄に「相手先名(会社名・氏名)」「人数」「目的」を必ず記載してください。「取引先A社 佐藤部長他3名、プロジェクト打ち上げ」とあれば、業務関連性は明確です。これが書かれていない領収書は、税務調査において「紙切れ」同然となるリスクがあります。

【業種別】指摘されやすい経費の傾向と対策
指摘されやすい経費は、業種によって「色の出方」が異なります。ご自身の業種に当てはめて確認してください。
建設業・建築業
この業界は、外注費と交際費、そして現場への移動費が焦点になります。」と疑われます。
- 傾向: 職人同士の飲み代や、元請けへの接待などが多くなりがちです。また、現場への直行直帰が多いため、車両費やガソリン代が高額になります。
- 調査の視点: 「一人親方への外注費」が給与認定されないか(消費税の問題)が最大の論点です。
- 対策: 現場ごとの工事台帳を作成し、どの原価・経費がどの現場(売上)に紐づいているかを明確に管理しましょう。
IT・コンサルティング・デザイン業
原価が少なく、人的サービスがメインの業種です。
- 傾向: カフェでの打ち合わせや、書籍代、PC周辺機器、視察旅行などが多くなります。自宅兼事務所のケースも多いです。
- 調査の視点: 「個人的な趣味の支出」が紛れ込みやすい業種です。例えば、個人的に観たい映画やゲーム、プライベート旅行のような視察、個人的な食事代などが厳しく見られます。
- 対策: 「なぜその支出が売上につながるのか」というストーリーが重要です。ゲームソフトを買ったなら、それが開発の参考資料であることを証明するレポートなどが必要です。
小売・飲食・サービス業
現金商売であり、在庫を持つ業種です。
- 傾向: 仕入と在庫の計上がメインですが、店舗の修繕費や備品購入費も論点になります。
- 調査の視点: 「自家消費」が見られます。飲食店であれば食材を自宅に持ち帰っていないか、アパレルであれば商品を自分で着ていないか。これらは売上計上すべき項目です。
- 対策: まかないや自家消費のルールを定め、適切に経理処理(社内売上や福利厚生費処理)を行うことが必要です。
医療法人・クリニック
高収益体質であることが多く、独自の慣習があります。
- 傾向: 学会出席のための旅費、医師会への会費、高額な医療機器、そして医師同士の交際費。
- 調査の視点: 「学会旅行」に伴う観光や、家族同伴の費用が含まれていないか。また、個人的な高級車の経費計上も非常に厳しくチェックされます。
- 対策: 学会参加証明書やプログラムの保存は必須。交際費については、医局や紹介元との関係維持など、医療行為や病院経営との関連性を明確にする必要があります。
最も危険な「役員の個人的支出」との区分
最後に、税務調査において最もダメージが大きい(重加算税の対象になりやすい)論点について解説します。それは「役員賞与(認定賞与)」というペナルティです。
会社と社長のサイフは別物
中小企業の場合、社長が会社のオーナーであることが多いため、「会社のお金=自分のお金」という感覚になりがちです。しかし、税法はこの混同を一切許しません。
もし、調査で以下のような支出が見つかった場合、単に「経費として認められない(否認)」だけでなく、「社長個人へのボーナス(役員賞与)」とみなされる可能性があります。ていないか」など、在庫の正確性は損益に直結します。
- 個人的なブランド品、時計、スーツの購入
- 家族旅行の費用
- 自宅のペット用品や子供の教育費
- 個人的な借金の返済に会社資金を充てた
ダブルパンチの恐怖
これらが「役員賞与」と認定されると、以下のダブルパンチ(往復ビンタとも呼ばれます)を受けます。
- 法人税の追徴: 経費として認められないため、その分の利益が増え、法人税が増えます。
- 所得税の追徴: 社長個人が「会社からボーナスをもらった」とみなされ、社長個人の所得税・住民税が増えます(しかも源泉徴収漏れとして不納付加算税もかかります)。
これは資金繰りに甚大な影響を及ぼします。「うっかり」では済まされない領域ですので、プライベートな支払いは、必ず個人のクレジットカードや個人の預金から支払う習慣を徹底してください。
調査に強い経理体制を作るための3つのルール
税務調査で指摘を受けない、あるいは指摘されても堂々と反論できる会社にするためには、日々の積み重ねが全てです。明日から実践できる3つのルールをご提案します。
ルール1:証憑(レシート)への「メモ書き」を習慣化する
領収書をもらったら、その場で裏に「誰と、何のために」をメモする癖をつけてください。記憶は薄れますが、記録は残ります。数年前の領収書について聞かれたとき、このメモがあるだけで調査官の心証は劇的に良くなります。
ルール2:法人カードと個人カードを物理的に分ける
財布を分けるのがベストですが、難しい場合はカードケースの中で場所を離すなどして、誤使用を防ぎましょう。ネットショッピングのアカウント(Amazonや楽天)も、法人用アカウントと個人用アカウントを明確に分けることを強くお勧めします。
ルール3:迷ったら税理士に相談する
「これは経費になるかな?」と迷ったときは、自己判断せずに必ず税理士に相談してください。「グレーなものを黒として処理してしまう損」や「黒なものを白として処理してしまうリスク」の両方を防ぐことができます。
まとめ
税務調査における指摘事項の多くは、実は高度な税法の解釈ではなく、「事実認定」の問題です。
- その飲食は本当に仕事のためだったのか?
- その旅行は本当に視察だったのか?
- その車は本当に会社の業務に使っているのか?
これらを証明するのは、社長ご自身の「説明」と、それを裏付ける「資料」です。
「やましいことはないけれど、資料が残っていない」というのが一番もったいないケースです。税務調査は「恐れる場所」ではなく、「適正な経理を行っていることを証明する場所」です。 日頃から「第三者(調査官)が見たときに、納得できるか?」という視点を持って経理処理を行うことが、会社と社長自身の資産を守る最強の盾となります。 当事務所では、日々の記帳指導から税務調査の立会いまで、経営者の皆様が安心して本業に専念できるサポートを行っております。経費の判断や証憑の保存方法について不安がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。
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