2025.11.21 (金)

相続税の税務調査の「現実」:なぜ5件に1件が調査され、追徴課税は平均859万円に達するのか

   

相続が発生し、無事に相続税の申告を終えたとしても、それで全てが終了したわけではありません。相続税の申告は、他の税目と比べて税務調査の対象となる確率が非常に高く、調査が入れば高額な追徴課税を覚悟しなければならないという、厳しい現実が待ち受けています。

 

納税者の方々がまず知っておくべきは、相続税の税務調査が「他人事」ではないという事実です。本コラムでは、国税庁が公表している最新の統計データ(令和5事務年度など)に基づき、相続税の税務調査が持つ具体的なリスクと、専門家による対策の重要性について詳しく解説します。

 

5件に1件が調査される「圧倒的な調査率」の現実

相続税は、法人税や所得税と比較して、総申告件数に対する税務調査件数の割合(実施率)が圧倒的に高いのが特徴です。国税庁の統計によると、相続税の申告に対して約20%つまりおよそ5件に1件の割合で税務調査が行われています。この高確率は、相続が一生にそう何度も経験するものではなく、申告に慣れていない人が多いことから、申告内容に誤りや漏れが発生しやすいことに起因しています。

 

また、税務調査が行われた場合、申告漏れ等の非違が指摘される確率は非常に高い水準で推移しています。令和5事務年度(2023年7月〜2024年6月)における実地調査件数は8,556件であり、そのうち申告漏れ等が指摘された非違件数は7,200件でした。これは非違割合が84.2%約9割近い確率で何らかの指摘を受けているという事実を意味します。

 

税務調査は、申告額が過少であると想定される事案や、申告義務があるにもかかわらず無申告であると想定される事案等について実施されます。

 

令和5事務年度のデータが示す「金銭的リスク」の増大

税務調査の「現実」を最も明確に示しているのが、指摘された際の金銭的な負担です。

令和5事務年度において、相続税の実地調査件数は8,556件に上り、これは前事務年度(令和4事務年度)の8,196件と比較して104.4%の増加となりました。さらに、追徴税額(本税と加算税の合計)は735億円に達し、前事務年度の669億円から109.8%増加しています。追徴税額合計は増加しており、税務署が調査を強化している傾向が鮮明に見られます。

 

特に注目すべきは、1件あたりの平均追徴税額です。令和5事務年度の実地調査1件あたりの追徴税額は859万円に上りました。これは、前事務年度の816万円からも増加しており(対前事務年度比105.2%)、一度調査が入ると、平均で数百万単位の追加納税が求められるという深刻なリスクを示しています。

 

実地調査による申告漏れ課税価格(1件あたり)も3,208万円(対前事務年度比100.0%)となっています。この高額な追徴額の背後には、相続税が累進課税方式であるため、財産が多いほど税率が高くなり、申告漏れが見つかった場合の追徴額も多くなるという構造的な問題があります。

 

税務署の進化した情報網:「簡易な接触」とKSKシステムの活用

なぜ税務署はこれほど高い確率で申告漏れを発見できるのでしょうか。その理由は、税務署が持つ強力な情報収集能力と、調査手法の多様化にあります。

KSKシステムによる個人資産の一元管理

税務署は、納税者情報を一元管理するKSKシステム(国総合税管理システム)を平成13年から導入しています。人が亡くなると、死亡届の情報が法務省を経由して国税庁に通知され、税務署はいつ誰が死亡したかを把握します。さらに、市役所などからは固定資産税評価額の情報が提供され、故人がどのくらいの不動産を所有していたかを知ることができます。

 

KSKシステムには、高額商品(不動産、高級車)の購入履歴、株式の取引履歴、給与データ、国債保持者などの情報が蓄積されており、税務署はこれらの情報をもとに、被相続人(亡くなった方)の収入、家族構成、資産内容から遺産総額を予想します。この予想額と実際の申告額を比較し、あきらかに少ない場合に、税務調査が入る可能性が高まるのです。

 

調査の際には、被相続人だけでなく、親族の預貯金や有価証券の取引も過去5年〜10年分さかのぼって調べられます。

 

効率化された「簡易な接触」の増加

実地調査(臨宅調査)が件数・追徴税額ともに増加している一方で、近年、税務署は調査手法の効率化を図っています。それが、「簡易な接触」と呼ばれる手法です。

 

 簡易な接触とは、実地調査を実施する一方、文書、電話、または来署依頼による面接を通じて、申告漏れや計算誤り等を是正する接触の手法です。令和5事務年度においては、簡易な接触が積極的に取り組まれ、その件数は18,781件に達し、前事務年度比で125.2%の大幅な増加となりました。

 

簡易な接触による追徴税額合計も122億円となり、公表を始めた平成28事務年度以降で最高を記録しています。この結果は、税務署が実地調査だけでなく、より効率的な簡易な接触も活用し、適正・公平な課税の確保に努めていることを示しています。

 

無申告事案への厳格な対応

相続税の申告が必要であるにもかかわらず申告をしていない無申告事案は、自発的に適正な申告・納税を行っている納税者の公平感を著しく損なうものです。このため、国税庁は無申告事案の把握のための取り組みを積極的に行っています。

 

令和5事務年度の無申告事案に対する実地調査件数は690件でした。この無申告事案における申告漏れ等の非違件数は613件で、非違割合は88.8%123億円に上り、これは公表を始めた平成21事務年度以降で最も高い金額となりました。

 

無申告が疑われる人には、相続開始後6~8ヶ月を目安に税務署から「相続税についてのお尋ね」が郵送され、申告が必要かどうかの確認が行われます。これに回答しない、または申告がなされない場合、税務調査が実施される可能性が一層高まります。

 

 調査の指摘事項で最も多いのは「現金・預貯金」

税務調査で申告漏れが指摘される財産として、最も多いのは現金・預貯金等です。

 

申告漏れ相続財産の金額の構成比を見ると、令和5事務年度においても現金・預貯金等が最も大きな割合(44.1%)を占めており、これは前事務年度(41.0%)から増加しています。

件数ベースで見ても、現金・預貯金等は2,590件と、他の財産を大きく上回ります。

特に問題となりやすいのが、タンス預金名義預金といった、故人の生前の資金の流れに関連する財産です。

 

タンス預金/現金: 自宅に多額の現金を保管している場合、税務署は被相続人の生前の収入状況などから現金のストックを把握しているため、申告された預貯金と乖離していると「現金隠し」を疑い、注視します。

名義預金: 名義上は配偶者や子どもの預金であっても、通帳や印鑑を被相続人が管理しており、実質的に被相続人の財産とみなされる預金です。税務調査では、名義人に収入や資産形成の根拠があるかどうかが確認され、実質的に被相続人の財産と認定された場合、相続税の課税対象となります。

 

申告漏れが発覚した場合の「重いペナルティ」

税務調査の結果、申告漏れが発覚し修正申告や更正処分を受けると、本来納めるべき税額に加え、延滞税加算税といったペナルティが課されます。

 

延滞税: 申告期限までに納税が完了しなかったことに対する利息的な税金です。

加算税: 申告内容が不適切であったことに対する懲罰的な税金です。

    ◦ 無申告加算税: 申告を怠った場合に課されます。

    ◦ 過少申告加算税: 申告額が少なかった場合に課されます。

    ◦ 重加算税: 財産の隠蔽や偽装など、悪質な行為があった場合に課される最も重いペナルティで、無申告の場合は40%、過少申告の場合は35%が加算されます。

 

意図的な隠蔽でなくても、計算ミスや財産の評価ミス、見落としにより過少申告が指摘されると、これらのペナルティが課され、平均859万円という追徴税額をさらに押し上げることになります。

 

税務調査のリスクを極限まで下げるために

相続税の税務調査は、高い確率で行われ、発覚時の金銭的リスクが極めて大きいものです。このリスクを回避するために最も有効な対策は、相続税申告に強い専門税理士に依頼することです。

 

1. 正確性の確保: 相続税に強い税理士は、複雑な財産評価や控除の適用(特に不動産評価など)を適切に行うため、申告内容の正確性が高まります。

2. 税務署からの信頼向上: 申告書に税理士の署名が入ることで、税務署からの信頼度が上がり、調査対象となる可能性が下がります。

3. 書面添付制度の活用: 税理士のみが利用できる「書面添付制度」を活用することで、申告書の内容が専門家によって検証されたことが明示され、調査対象となる懸念を大きく払拭できる可能性があります。書面添付制度の活用により、税務調査率が全国平均の約20%に対し、1%未満まで下がったという実績を持つ事務所も存在します。

 

万が一、税務調査の連絡が来た場合でも、税理士が立ち会うことで、調査官の質問の意図を理解し、適切かつ正確な回答を行うことができ、追徴税額の軽減につながる可能性が高まります。

 

相続税の税務調査は避けて通れない現実であり、その統計は年々厳しさを増しています。不安を解消し、財産を最大限守るためにも、相続税の専門的な知識と豊富な実績を持つ税理士に相談することが、最も賢明で確実な一歩と言えるでしょう。

 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

TEL:0586-48-5507 

FAX:0586-64-6644 

mail:info@ooishi-kaikei.com

 

コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

スタートアップサポート税理士法人代表者。
総合病院の勤務医のような存在よりも、個々の企業にとってのホームドクターのような存在でありたいと考えております。
日々の細かい会計処理のことから資金繰りや雇用、助成金、企業経営者にとって何でも気軽に相談できる良きパートナーとして専門的知識を生かしていきたい所存です。