2025.01.29 (水)
法人の税務調査は何を調べている?調査の流れ・ポイントなどについて専門税理士が解説します。

目次
法人の税務調査は、会社経営者や経理担当者で経験がない方ほど不安を覚えるものです。
結論から先に申し上げると、税務調査のポイントをしっかりと知り、顧問税理士としっかり意思疎通を図っておけば恐れる必要はありません。
本記事では、法人の税務調査で調べられる内容や、調査の流れ・ポイントなどについて専門税理士が詳しく解説します。
法人の税務調査の種類と実施内容
法人の税務調査とは、国税局や税務署などの徴税機関が法人の申告内容に誤りがないか確認するための調査で、誤りがあればそれを是正させることまでを含みます。
税務調査には大きく分けて「強制捜査」と「任意調査」の2種類があり、近年は自主的な是正を促す「簡易な接触」というケースも増えています。
まずは税務調査の実態について、「法人税等の調査事績の概要」(国税庁発表資料)をもとに押さえておきましょう。
実際に行われているのは任意調査
一般的に税務調査といわれているものは、そのほとんどが国税通則法第34条の6第3項および第131条の規定にもとづき実施される任意調査です。
映画「マルサの女」で有名になった国税局査察部などが実施する強制捜査は、一般的な法人にとって縁遠い存在だといえます。
それというのも強制捜査は、不正の総額が1億円以上であることが多く、意図的に悪事を働いていなければマルサの心配をする必要はありません。 国税庁の発表資料によれば、令和5事務年度(令和5年7月~令和6年6月)における法人への実地調査実施件数は約5万9千件で、調査1件当たりの追徴税額は5,497千円となっています。
項目 | 事務年度 | |
---|---|---|
令和4年 | 令和5年 | |
実地調査件数 | 62千件 | 59千件 |
申告漏れ所得金額 | 7,801億円 | 9,741億円 |
追徴税額 | 3,225億円 | 3,197億円 |
調査1件当たりの追徴税額 | 5,241千円 | 5,497千円 |
任意調査となっていますが受忍義務があるため、拒否したり正当な理由なく必要書類を見せなかったりすると刑事罰を科される可能性があります。
実地調査より件数の多い「簡易な接触」
国税当局も人員が不足気味なのか、「文書や電話等による簡易な接触も行うなど、限られた人員等をバランスよく配分し、効果的・効率的な事務運営を心掛けています」という取り組みに力を入れています。
この「簡易な接触」とは、申告書類に疑義を持ちながらも実地調査をせず納税者に修正申告を促す取り組みです。
この簡易な接触は約7万件実施されていて、追徴税額は92億円となっています。
税務署サイドが「簡易な接触」と称してお尋ねを送付するのは、かなり確信を持っていることなので、有耶無耶にせず税理士へ相談することが必須です。
法人への実地調査までの流れと調査の進み方
知っていたとしても税務調査は不安なもので、どのような流れで法人の税務調査に至るのか知っておくことは重要です。
イレギュラーなことはあるにしても、まずは一般的な法人の税務調査までの流れを確認しておきましょう。
税務署からの事前通知と日程調整
法人への税務調査は基本的に事前通知が原則で、現金商売など国税当局が脱税を疑って行う抜き打ちの「現況調査」以外は事前に知ることができます。
これは国税通則法第74条の9で定められていることで、たいていは国税当局の調査希望日の2~3週間前に電話や文書によって連絡されるのが一般的です。
顧問税理士に税務申告を依頼(税務代理権限証書を提出)している場合は、顧問税理士あてに調査依頼がなされます。
国税当局からは調査の希望日が伝えられますが、そのまま受け入れる必要はなく、こちらの希望あるいは税理士事務所の都合をもとにすり合わせを行い、最終的な実地調査の日程を決めます。
実地調査の日程が決まったら、申告内容に問題がないか顧問税理士と打ち合わせを行うのですが、ここで重要なのは重大な秘匿内容がないか正直に話すことです。 真っ当な申告をしていれば大きく悩む必要はないのですが、解釈に関してのグレーゾーンは多いのでしっかり相談しておきましょう。
調査当日からの流れ
実地調査は10時くらいから始まり16時くらいに終わることが一般的で、そこでは会社の社長や経理担当に会社の概要や得意先、仕入先、従業員の状況についての聞き取りが行われます。
それが終われば調査官が必要な書類について要求し、経理担当が用意するという流れです。
ここで焦る必要はありませんし、答えに窮する質問があったとしても「顧問税理士と相談します」といえば済みます。 実地調査は2~4日程度で終わることが多く、2日目以降は淡々と同じようなやり取りが続くイメージです。
提出を求められる書類を確認しましょう
法人の税務調査では申告内容に誤りがないか確認するため、概ね以下の書類の提出を求められます。
- 総勘定元帳
- 現金出納帳・預金通帳
- 賃金台帳・年末調整資料
- 棚卸台帳
- 支払い関連の証憑(領収証や請求書)
- 売上関連の証憑(領収証や請求書)
- 各種契約書
- 社内規定
- 議事録
これ以外にも調査官が必要と考えた書類の提出を求められることがありますが、経理担当者であればすぐに対応できるものがほとんどです。
通常の実地調査は、直近の確定申告を含めた過去3年分をチェックされるので、慌てないような事前準備を心がけましょう。

法人税に関する調査内容とポイント
法人に対する税務調査の目的は、法人税の申告内容が正しいのか確認することが主目的となっていて、大きなチャックポイントは以下の2点になります。
- 売上(益金)が適切に計上されているか
- 経費(損金)に問題がないか
売上除外や経費の水増しは分かりやすいとして、直近決算ではそれぞれ計上時期が適正なのかは必ず確認されます。
最初の関門であるこれらのポイントで問題が指摘されると、調査官の心証が悪くなり調査も厳しくなるので注意が必要です。
また、社長を含めた役員と法人の関係性は必ず確認されるポイントで、経費に私的支出がないのかチェックされます。
同族会社の場合、社長の家族が役員になっているケースが多いと思いますが、勤務実態がなければ役員報酬が否認される可能性もあります。 いずれにしても収益の適正な計上と、法人の事業目的に必要な支出であることを主張できるよう意識しましょう。
消費税に関する調査内容とポイント
法人の税務調査では、消費税の申告内容についても確認が行われ、とくに消費税の還付申告については重点調査項目になっていますが、以下の点が注目ポイントです。
- 課税売上高が適正に計上されているか
- 仕入税額控除に誤りがないか
- 課税事業者に該当していないか
- 簡易課税制度の適用・計算に誤りがないか
- 各種届出書等の提出時期に誤りはないか
消費税の調査では、法人税の調査と連動する非違(売上除外・計上漏れなど)と、法人税とは連動しない消費税固有の非違に分かれます。
消費税固有の非違において課税・非課税・不課税の区分はもちろん、仕入税額控除の内容には注意が必要です。
また、インボイス制度開始以降は適格請求書の保存など、手間が格段に増しているので日頃の経理処理が極めて重要になっています。
源泉所得税や印紙税にも注意が必要
資本金1億円未満の税務署所管法人については、法人税の調査だけではなく源泉所得税や印紙税といった税目についても同時に調査されます。
源泉所得税においては、各人の税額が適正に計算されているのか、年末調整の計算が適正に行われているのかが確認されます。
最も注意すべきポイントは、経済的利益や現物給与について課税漏れはないかということです。
従業員等に対する経済的利益や現物給与に該当する支出はないか、または役員の個人的費用を会社が負担していないかなどは重点的にチェックされます。
印紙税の調査は「オマケ」的なものですが、契約書などに必要な印紙が貼付されているのか確認しておきましょう。

必ず「お土産を持って帰る」って本当なの?
税務調査に関係する噂で、「税務調査では、お土産を用意しておく必要がある」と聞いたことはないでしょうか。
これは調査官が手ぶらでは帰れないので、あえて軽度な誤りを知らせるということなのですが、そんな配慮などは必要ないどころか逆効果にさえなってしまいます。
これは調査官の立場になって考えれば分かることで、誤りを発見すれば「もっと何かあるはず」と思うのが普通です。 法人の税務調査とは、普段の正しい経理処理・申告を改めて確認してもらう機会だと認識しましょう。
実地調査終了後の流れ
一般的には法人の実地調査が終わってから税務署内で調査内容が検討され、大きな問題点が見つかった場合には、実地調査は終了後も税務署から指摘や質問があるケースもあります。
最終的には以下の2つになるのですが、確率的には誤りを指摘されるケースが多いのが現実です。
- 申告内容に誤りがなく「更正すべき理由がない旨の通知」が送付される
- 当初申告書に誤りがあり調査結果の説明が行われる
誤りがあった場合、その内容に納得したのであれば修正申告に応じることになり、不服であれば税務署から是正すべき内容を記載した更正通知書が発送されてきます。 最終的な対応については冷静に考えるべきで、税理士と協議したうえで現実的な選択肢を選ぶべきでしょう。
まとめ
法人の税務調査と聞けば、ほとんどの経営者は良い気持ちにはならないはずです。
とはいえ、いつかは税務調査を受ける可能性があることを考えると、信頼できる税理士選びがオススメです。
その時を唐突に迎えることがないよう、あらかじめ準備をしておきましょう。
税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。
TEL:0586-48-5507
FAX:0586-64-6644
コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。