2026.07.24 (金)

会社の預金残高は月商の何ヶ月分が必要?適正水準と手元資金の目安を元銀行員が解説

先日、ある経営者の方からこんな相談を受けました。

 

「会社のお金って、いくら残しておけば安心なんでしょうか?」

 

これは経営者から非常によく受ける質問です。

 

預金残高が1,000万円あっても不安な人もいます。反対に、300万円しかなくても平気な人もいます。

実は、この質問には正解がありません。なぜなら、安心できる預金残高は会社によって全く違うからです。

 

業種も違う。売上規模も違う。借入状況も違う。固定費も違う。

だから一律に「預金は○○万円必要です」とは言えません。

 

しかし、銀行員として25年間、多くの会社を見てきた経験から言うと、預金残高について誤解している経営者は少なくありません。

 

そして、資金繰りに強い会社には共通する考え方があります。

 

今回は、「預金残高はいくらあれば安心なのか」について考えてみたいと思います。

   

預金残高に正解はない

まず最初にお伝えしたいことがあります。

預金残高の絶対額にはあまり意味がありません。

 

例えば、預金残高3,000万円と聞くと、多くの方は「かなり余裕がありそうだ」と思うかもしれません。

しかし、年商1億円の会社の3,000万円と年商20億円の会社の3,000万円では意味が全く違います。

同じ3,000万円でも安心度は大きく異なります。

 

また、固定費が毎月100万円の会社と固定費が毎月1,000万円の会社でも違います。

 

重要なのは金額そのものではありません。その会社にとって十分な預金なのかどうかです。

 

なぜ経営者は預金残高が気になるのか

経営者が通帳残高を気にする理由はシンプルです。

会社は利益ではなく現金で生きているからです。

 
  • 社員の給与
  • 仕入代金
  • 家賃
  • 税金
  • 借入返済
 

すべて現金で支払います。

 

決算書上で利益が出ていても、お金がなければ支払いはできません。

 

銀行員時代、「利益は出ているのに資金繰りが厳しい」という会社を何度も見てきました。

反対に、利益はそれほど大きくなくても、預金を厚く持っている会社は安定していました。

 

経営者が本能的に預金残高を気にするのは自然なことです。それだけ会社経営において現金は重要なのです。

 
 

銀行が見ているのは預金残高そのものではない

ここで一つ知っておいていただきたいことがあります。銀行も預金残高を見ています。

 

しかし、「預金が多いから良い会社」とは単純に考えていません。

 

銀行が見ているのは、その会社の資金耐久力です。

 

例えば、預金5,000万円、毎月の固定費500万円であれば、理論上は10か月分の固定費を持っていることになります。

一方、預金5,000万円、毎月の固定費2,000万円であれば、2か月半程度しか持ちません。

同じ預金残高でも見え方は大きく変わります。

 

銀行員時代も、「現預金はいくらか」だけでなく、「何か月持つのか」という見方をしていました。

 

私が銀行員時代によく見ていた数字

銀行員時代、企業分析をするときによく考えていたことがあります。

 

もし今日から売上がゼロになったら、この会社はどれくらい耐えられるだろうか。

 

極端な話ですが、これが会社の体力です。

 

コロナ禍で多くの会社が苦しんだとき、預金の重要性が改めて注目されました。

 

売上が激減しても、半年分以上の固定費を持っていた会社は比較的冷静でした。

一方、預金が少なかった会社は不安が大きくなりました。

 

もちろん、融資や支援制度で乗り切った会社もあります。

 

しかし、その時に強く感じたのは、現金は経営者の心の余裕でもあるということでした。

 

目安として考えたい「固定費何か月分か」

では、実際にどの程度あれば安心なのでしょうか。

 

私は経営者との面談で、まず固定費を確認することがあります。

 

固定費とは、

 
  • 給与
  • 家賃
  • リース料
  • 保険料
  • 借入返済の元本を除いた経常的支出
 

などです。

 

そして、預金残高 ÷ 月間固定費を考えます。

 

もちろん業種によりますが、一般的には

 

3か月未満 → 注意

3〜6か月 → 標準的

6か月以上 → 比較的安心

 

という見方ができます。

 

絶対的な基準ではありません。しかし、経営判断をする際の一つの目安になります。

 

預金が少ない会社に共通する特徴

銀行員時代に見てきた中で、預金がなかなか増えない会社には共通点がありました。

その一つが、利益以上にお金を使っていることです。

 
  • 設備投資
  • 過度な節税
  • 過大な役員報酬
  • 在庫の増加
  • 売掛金の増加
 

こうしたことが積み重なると、利益は出ているのに現金が残りません。

 

特に中小企業では、「税金を払いたくない」という気持ちから無理な支出をするケースもあります。

しかし、税金を減らすことと、会社のお金を残すことは別の話です。

 

銀行員時代、預金が多い会社ほど無理な節税をしていない印象がありました。

 

預金が多い会社に共通する特徴

反対に、預金が厚い会社にも共通点があります。

 
  • 利益を積み上げている
  • 設備投資を慎重に判断している
  • 借入を上手に活用している
  • 資金繰り表を作っている
 

そして何より、お金を残すことを経営目標の一つにしている。

 

ある経営者はこう言っていました。

 

「利益よりも通帳残高を見るようにしています」

 

もちろん利益は大切です。しかし、「利益は意見、現金は事実」という言葉もあります。

 

通帳残高は会社の現実を映しています。

 

だからこそ、資金繰りに強い会社ほど預金を重視しています。

 

借入があるから不安という考え方は危険

ここで一つ誤解されやすいことがあります。

 

借入があると不安。

借金は少ない方が良い。

 

そう考える経営者も少なくありません。

 

しかし銀行員時代に見てきた中では、借入があることより、預金が少ないことの方がリスクでした。

 

例えば、借入1億円、預金8,000万円という会社。

一方で、借入ゼロ、預金300万円という会社。

どちらが安心でしょうか。

 

もちろん業種や状況によります。しかし、資金繰りという観点では前者の方が安定していることもあります。

 

借入の有無だけでは判断できません。

 

重要なのは、どれだけ現金を持っているかです。

 

預金残高は経営者の選択肢を増やしてくれる

預金がある会社は強いです。

 

なぜなら選択肢が増えるからです。

 
  • 設備投資ができる
  • 人材採用ができる
  • 新規事業に挑戦できる
  • 不況時も慌てない
 

逆に預金が少ないと、常に目先の資金繰りに追われます。

本来考えるべき経営判断ではなく、来月の支払いを考える時間が増えてしまいます。

 

だからこそ、預金残高は単なる数字ではありません。会社の自由度そのものなのです。

 

まとめ

預金残高はいくらあれば安心なのか。残念ながら絶対的な正解はありません。

 

しかし重要なのは、金額ではなく体力です。

 
  • 固定費の何か月分を持っているか
  • 資金繰りに余裕があるか
  • 将来の投資に対応できるか
  • 不況時にも耐えられるか
 

こうした視点で考えることが大切です。

 

銀行も経営者も、本当に見ているのは預金残高そのものではありません。

会社がどれだけ安心して経営できる状態にあるかです。

 

もし今、「いくらあれば安心なのだろう」と考えているのであれば、まずは預金残高を見るだけでなく、固定費とのバランスを確認してみてください。

そこから会社の本当の体力が見えてくるかもしれません。

 
 

税務調査に関して不明な点があれば、弊所までお気軽にお尋ねください。

 

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コラムの内容は、国税庁等の公式見解を示すものではありません。詳細は顧問税理士にご相談ください。当コラムの活用において生じた損害の一切の責任は負いかねます。

記事の著者

銀行勤務25年。法人融資・企業審査・事業支援業務を通じて、多くの中小企業の資金調達や財務改善に携わる。
現在は「銀行と経営者をつなぐ財務翻訳者」として、銀行の考え方や財務の見方を分かりやすく伝える活動を行っている。
本コラムでは、融資のテクニックではなく、経営判断に役立つ視点をお伝えしています。